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「うぉぉぉ! って痛くねぇ…」
さっきまでの頭痛が嘘みたいに消えて、夏樹はふぅと安心する。
「おいテイラ、ちょっと体調が悪いから先に宿に……」
夏樹は周りの風景が変わっている事に呆然と立つ。
今いるところは白い無機質な世界が広がっていて、今いる所の遠近感が掴めない、地面に立っているのか宙に浮いているのか右を向いているのか左を向いているのか概に夏樹の頭は分からないことだらけでパンクしそうだ。
いや、1つだけ分かることは目の前にドアがあるということ。
いかにもこれを開けてなかにはいれと知らせているように目立っている。
よく社会人の面接に使われる汚れ1つ着いていない白いドアと言えば分かるだろうか。
夏樹はそのドアを何のためらいもなく手を伸ばす。
ガチャと開いた瞬間四方八方に光が巻き散らばり夏樹の視界を遮った。
まぶしっ、と心の中で叫び次第に光が静寂になって、光が完全になくなった所で頭を手でポリポリとかきながらドアの奥に足を運んだ。
中はいたって普通の家庭にある部屋だ。
ソファにテレビに長いサボテン、ご親切に冷蔵庫まである。
一瞬夏樹はサボテンを目を重視するが直ぐにサボテンからめをそらし冷蔵庫まで足を運ぶ。
夏樹はここでもためらいなく冷蔵庫をあけて手で中を探り出した。
「お、プリンだ、ラッキー」
棒読みでそういい、サボテンはガサガサっと動く、夏樹の目はそれを逃さずきちんと動いたのをとらえた。
プリンをもったままソファにいき座る。
正方形の机に置いてあるテレビリモコンをポチと押すと丁度
夏樹のはまっているヒルナンデスをプリンを食べながら没頭して、部屋中に笑い声が響く。
サボテンに隠れている黒い影は、何を寛いでいるんですか、と心の中で叫ぶがあくまでも心の声なので虚しく夏樹には届かない。
しばらく時間が立ち遂にしびれを切らした黒い影はサボテンから現れて夏樹に怒鳴る。
「何で他人の部屋に何も警戒心ゼロで寛げれるんですか!」
「ん? ああ、久し振り」
マイペースに手を振り、黒い影ははぁとため息を吐く。
実の所、この黒い影の正体はエレスサンテス通称「神」という存在で概に夏樹とは1度顔合わせであった。
「おふざけはここまでにして本題にはいります」
「俺は別にふざけてないけどな」
「うるさいっ!」
神はゴホンと1つの咳をして口を開いた。
「記憶は戻りました?」
「ああ、戻ったよ」
そう、夏樹はあの異世界に何故連れてこられたのか全て思い出していた。
きっかけはあのドアを開いた瞬間に四方八方に放たれた光。あれは記憶を戻す光でそれを浴びた夏樹は記憶がめでたく戻ったのだが夏樹はそれに苛立ちを持っていた。
「俺は行かないと言ったよな」
さっきも言ったように二人は概に顔合わせで神が夏樹をこの無機質な世界に連れてきたのだ、といっても今みたいにこの部屋はなかったが。
その時に神は1つのお願いをした。その内容は「私の世界を救って下さい」ということだ。
が夏樹の住む世界では異世界などただの仮想でしかない、そんなあやしいお願いをされても素直に分かりましたと答える人はいないだろう。
夏樹もその不信過ぎるお願いを当然の如く即答に断った。
直ぐにでもこの無機質な世界から出ようと歩き出すがそこでふと夏樹の頭に何かが横切った。
それは「あれどうやってここから帰るの?」との疑問を抱く。
神の領域は神でしか知らず当然夏樹には分かるはずもない。
神は顔に笑みを浮かべさせ「帰しませんよ」と言った。
そのことにたとえ細かい事を気にしない派の夏樹でもこれについては激怒して、神の領域で暴れたのだ。
困った神は1度異世界に放り込んで異世界があると信じさせようと思い本人の意思を無視して異世界に放り込んだ、ついでに神という存在の記憶も消去した。
異世界に記憶のないまま連れてこされた夏樹はしばらくしてこの世界に馴染んできた。
こうして神は夏樹が異世界に馴染んでもらった所へ再びこの無機質な世界に連れてきたのだ
「行かないと言ったのは異世界がないと思ったからでしょ、でも夏樹さんは今その目で見て来ました、ですので私の世界を救って下さい」
「嫌だ、帰る」
何で神の事情で俺が異世界に行かないと行けないんだ。
まぁ異世界ではいろいろお世話になった、宴もやったし、寝床ろも貸してくれたし、おまけに獣人族は可愛いときた。
そのまま異世界に暮らしても悪くはない。
だけど日本には雪野が待ってるんだよ、こうしている間にも悲しんでるかもしれないんだ!
夏樹がそう思っている同時に神もまさか断られるとは思っていなかったのだ。
実際あの世界にいて夏樹は楽しそうに見えたしちゃんとお決まりの獣人族にも会えた。
…なら何故
神の思考にはその疑問が浮かぶ。
「異世界ですよ、男のロマンですよ、お決まりのハーレム作れちゃいますよ、こんなチャンスを逃したら」
手を広げて必死に口論するが話を途中で途切れる。夏樹の目がそんなのどうでもいいと答えている。
「帰りたいのですか?」
「そうだよ」
「帰しませんよ、世界を救うまで」
「ああ?」
神は獲物をとらえるヘビみたいに鋭い目付きをして夏樹を睨む、それに対して夏樹は腰を曲げ上目目線で神を睨む。
両者一方も譲らず神と夏樹の間にはビリビリと青く輝いた電気が交互にぶつけ合っているように見える。
はぁとため息を吐いて神の手には1枚の紙とボールペンを持ち夏樹の頭に再度あの痛みが蘇った。
「痛い痛い!」
両手で頭を抑えて足がよろけるがピタリと誰かに支えてもらっているようにひとたりも動かなくなる。
神が夏樹の動きを止めたのだ、ついでに抵抗出来ないようにと頭に激痛を走らせた、このダブルパンチのおかげで動く処かまともに喋ることも出来ないだろう。
「これで動けませんね、ではこちらにサインをお願いします」
そう言って夏樹を操る。
夏樹の片手に1本のボールペンを持たせ紙に書かせようとするがふと夏樹の視界に神の内容が見えた。
サインを押してもらいましたら魔王を倒すまたは魔王復活を止める、以下これらの条件にクリアができない場合母国に帰れません。
帰れる条件はその2つの条件にクリアができたら自動的に日本へと帰れます。
…ふざけるな、そんなことになったら長い期間日本に帰れなくなるじゃねぇか、させね、そんなことさせやしねぇ!
手が止まりボールペンも止まる。この現象に神は驚いて背中に汗をかくが夏樹の言葉とまっすぐとした眼差しで更に神を童謡させる。
「神、俺を舐めんなよ、雪野が俺を待ってるんだ、こんなところで時間を貪ってる暇はねぇんだよ!」
その声の気迫に神は1歩足を後ろに歩く。
「雪野さんとは確か夏樹さんの彼女さんでしたよね、その人はもう死んでしまったはず、何があなたをそこまで縛るのですか!」
「約束したんだよコノヤロー! なぁあんた大切な人が出来たことあるか? いやないからこんなことするんだよな」
「私だって大切な人はいます!」
神も真剣な眼差しで夏樹を怒鳴ると夏樹の手が再び動きだし、頭痛も痛みが増す。
うぁぁぁと叫びながらも操りを抵抗をする。
だが、それも虚しく徐々にペンが紙にサインをしていき、終いには夏樹という名を紙に写し出された。
それを神は「はい、受け取りました」と笑みを浮かべて紙を神の手に渡った。
夏樹は紙にサインをしたことに脱力感に襲われ膝が地面に着く。
「では行ってらっしゃい」
手を振り満面な笑みを浮かべ、テレビの電源がプツンときれたみたいに夏樹の視界が真っ暗になった。
次回は雪野という正体が少し分かります。
7話も引き続き見てくださると嬉しいです。
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