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戦天女の黙示録  作者: 平平
一章 風神、雷神
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其の二

 とある夜、二人の訪問者が街の外れに降り立った。

「空ちゃん、降りる場所間違えてない?」

 (りん)が周りを見渡しながら問いかける。何故なら、視界に入ってくるのは、木! 木! 木! 木しか目に入らないのだから。

「これで切り倒してもいいんだけど、どうする?」

 背中の〈雷光斧(らいこうふ)〉を手に取るが、

「やめておけ。ここは天上界じゃない。俺達は人間界に被害を与えてはいけない」

 そう言いながら、左手に付いている〈風切(かざきり)〉を投げようとしていたみたいだった。

「言っている事とやっている事がちがーう!」

「これはあれだ……いつもの癖だ。気にするな」

 ここで言い合いをしていても埒が明かないので、空臥(くうが)は一先ずジャンプをして空高く飛び上がり地形の確認をした。

「建物が向こうに密集しているみたいだ。あっちに向かって歩こう」

 二人は森を抜けるために歩き始めて数十分が過ぎた頃、突然大きな音が響き渡る。

 ギュルルルルルルルー

「な、何だ今の音は? ――もしかして、これが空腹というやつなのか?」

「うん、そうみたい。私、だんだん力が入らなくなってきたよ……」

 丁度、森から抜け出して公道が目の前に見え始めた頃、二人の限界が訪れたのか、道の端っこで座り込んでしまった。今まで味わったことのない感覚が襲いかかり気力を奪っていく。

「私達、このまま何も出来ずに餓鬼になってしまうのかなぁ……」

 (りん)は虚ろな目で呟きながら、空臥(くうが)の足を掴んで噛り始めている。

「お、おい! 痛い、イテテテテッ! (りん)やめろ! イテッ……やめろっていっているだろ!」

 なんとか(りん)を振りほどくが、空臥(くうが)も力が出なくなってきてしまい、二人して道端で倒れこんでしまった。

 暫くすると、軽トラックが倒れている二人の前で停車した。

運転席から降りてきた初老の男性は二人に近づくと、

「こ、こいつは……い、生きているのか? おい! 大丈夫か?」

「く…………くう……ふ…………く…………」

 手を伸ばし、今にも死にそうな声で今の状況を伝えると、空臥(くうが)の手はパタッと力尽きた。

「なんでぇい。腹減って倒れていたのか。今の御時世珍しい。――それにしても、凄い恰好だな。これがコスプレってやつなのかね。……返事がねぇな。取り敢えず荷台に乗せるとするか」

 男は荷台の荷物を整理した後、二人を担いで荷台に乗せると、街に向かって走りだした。

 十分程走ると一つの看板が見えてくる。そこには〈天元ラーメン〉と書かれていた。

 男はその前で車を停車させると、荷台の二人を店の前で降ろし、壁にもたれかけさせる。その後、車を裏にまわして、直ぐ様店内へと入っていく。

「おぉ、忘れるところだった。二人を店の中に入れなきゃだ」

 鍵を開け、店内に二人を引きずり入れると、麺を茹で始め、スープに火をいれる。

 暫くすると、スープのいい香りが店内に広がっていく。その美味そうな香りに釣られたのか、二人はゾンビの如く蘇り、ズルズルと這いよってくる。

「おっ、目が覚めたか。今からうめぇラーメン食わせてやるから、そこに座って待ってな!」

 二人は椅子に這い登ると、今まで嗅いだことのない甘美な臭いの誘惑に腹を鳴かせている。

 店内に響き渡る腹の音に男は大笑いをしていた。

「ほらよ、店長特製の天元ラーメンだ! さぁ、食べな!」

 二人の前にラーメンが並べられると、何度もラーメンと男を交互に見つめていた。さっさと食ってしまえと言われると、二人はあっという間にそれを平らげてしまう。

「見事な食べっぷりだ……よほど腹を空かせていたんだなぁ」

 汁一滴すら残っていない器をずっと眺めている二人に、男は「もう一杯いっとくか?」と尋ねると、二人は顔を上げ、目を輝かせながらコクコクと頷いた。

「こんな美味いものを食べたのは初めてだよ。凄いな、おっさん」

「あぁん? 誰がおっさんだ馬鹿野郎! わしはこの店の店長だぞ。て・ん・ちょ・う!」

 店長がどういうものなのかよく分かっていない空臥(くうが)だったが、偉いという事だけは理解出来た。

「そうか。済まなかった。店長」

 その横で(りん)は餌を欲しがっている子犬の様な目で、ずっと店長を見つめている。

「分かったからちょっと待て! 直ぐ用意するからな。――但し、タダ飯はダメだ。裏に荷物の乗ったトラックが止まっているから、それを店内に運んでくれ。その間に作っておいてやるからよ」

 トラックが分からない二人は、店長に作業の説明を受けると、手早く荷物を運び始め、あっという間に終わらせると、先程まで座っていた椅子にちょこんと座った。

 その姿を見た店長は店が揺れているのではないだろうかというぐらいの大声で笑った。

 結局二人は、五杯のラーメンを食べ、ようやく落ち着いてきたのか、

「店長様、ありがとうございます。今更ですが名乗らせて頂きます。――私は雷神の娘、(りん)といいます」

 (りん)は心から感謝しているのだろう。いつもとは違う喋り方で頭を下げる。

「店長、感謝する。俺は風神の子、空臥(くうが)だ。俺達に出来る事があれば何でも言って欲しい。風神雷神の名を汚さないよう、受けた恩は必ず返そう」

 続いて空臥(くうが)も深々と頭を下げた。

「風神? 雷神?」

「あぁ、そうだ」

「そう言えば、この街に神様が来たとかどうとか聞いた事があるな。って、神様だぁ?」

「私達は神ではなく、神の子です」

「んなことはどっちだっていい。――それにしても本当の話だったんだなぁ。俺はどえれぇもん拾っちまったんだな。まぁ、あれだ。ラーメン食わせただけだし、それを美味そうに食ってくれたんだってんなら、こっちはそれで大満足ってもんだ」

「そうなのか? 今は何もなくても、いずれは必要になるかもしれない。俺達は店長の頼みならいつでもここに飛んで来る」

「そうだね、空ちゃん」

「それと、一つ頼み事がある。――この街の神様の話ってのを聞かせてくれないか?」

「ん? あぁ、構わんよ」

 店長はこの街に現れたという神様の話を二人に聞かせた。そして、その三人が学校に通っているらしい事も伝える。

「そこに行けばいいのか。店長!」

「大声を出さんでいい。場所が知りたいんだろ?」

 店を出た店長は、二人に学校の場所を教えると、二人はもう一度深々と頭を下げ、学校に向かって歩き始めた。



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