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戦天女の黙示録  作者: 平平
プロローグ
5/37

其の四

 浩介(こうすけ)が最初に聞かされたのは、天上界という存在についてだった。

 そこでは神様が沢山暮らしているらしい。そして、過去に大きな戦いがあったという。その戦いの原因は、一人の女という事だった。

阿修羅王(あしゅらおう)の娘で舎脂(しゃちー)って子がいたのよ。そこにいる桃華(とうか)の姉ね。もう一つ言うなら、瑠璃(るり)の母親でもあるのよ」

 その舎脂(しゃちー)という娘が帝釈天(たいしゃくてん)に拐われた事が発端らしい。娘を奪われた阿修羅王(あしゅらおう)は単身で帝釈天(たいしゃくてん)の元へ向かったという。

「それで話がすめば良かったのだけどね、そうはならなかった。舎脂(しゃちー)阿修羅(あしゅら)一族の次期王となる予定だった。それが拐われ、一族が動かない事はありえないってなったのよ。こう言ってはなんだけど、阿修羅(あしゅら)一族って戦闘狂なのよね。それを止めるには須弥山(しゅみせん)の神々が動かなければなかった。まぁ、私は動かなかったけどね」

 戦況は阿修羅(あしゅら)一族が優勢だった。だが、それを覆す出来事が起こる。

阿修羅王(あしゅらおう)は自軍を抑えるのに必死だったわ。それを一瞬で止めたのが舎脂(しゃちー)。彼女は帝釈天(たいしゃくてん)と共に阿修羅(あしゅら)一族の前に姿を現した」

 そこで、舎脂(しゃちー)帝釈天(たいしゃくてん)の后になると宣言した。そして、自分は拐われたわけではなく、自らの意志で帝釈天(たいしゃくてん)の元にいると。

「実際、拐われたのか、自ら降ったのかは本人しか分からない。でも、阿修羅(あしゅら)一族を動揺させるには十分だった。帝釈天(たいしゃくてん)はここで退けば罪を問わないと言ったのだけど、一度振り上げた拳を下げる事は出来なかったみたい。阿修羅(あしゅら)一族は舎脂(しゃちー)を裏切り者として戦を続ける事にした」

 いくら阿修羅(あしゅら)一族が強いと言っても、須弥山(しゅみせん)の神々には敵わない。攻撃を開始した帝釈天(たいしゃくてん)の軍は圧倒的な力で突き進んでいく。

「まぁ、戦う理由を失くした軍なんて烏合の衆。後付けの理由では統率もなにもあったものじゃないわ。ここでどんな理由であれ、阿修羅王(あしゅらおう)帝釈天(たいしゃくてん)を討ち取っていれば色々変わっていたのかもしれないけど、そうはならなかった」

阿修羅王(あしゅらおう)ってのはそんなに強いのか?」

「えぇ、個の武で言えば如来部(にょらいぶ)と同等って話よ。本当かどうかは知らないけど。少なくとも須弥山(しゅみせん)で勝てる者なんて一人もいないでしょうね」

 阿修羅王(あしゅらおう)は降伏を申し出て、一族の身の安全と引き換えに修羅界(しゅらかい)に堕ちる事を了承した。

「この話は浩介(こうすけ)ちゃんには関係ないけど、ここにいる子達が深く関係しているので、一応聞いてもらったの。――そして、ここからが本題」

「長い話だし、ちょっと難しいな。オッパイと尻に当てはめて説明してくれ!」

「は・な・し・つ・づ・け・る・わ・よ?」

「は、はい……お願いします」

 つい先日、阿修羅王(あしゅらおう)帝釈天(たいしゃくてん)は久しぶりに会ったという。その理由は兜率天(とそつてん)で修行をしている弥勒菩薩(みろくぼさつ)からの文だった。

兜率天(とそつてん)って何だ?」

「天上界は大きく二つに分かれているの。私達が暮らしている地居天(ちごてん)菩薩部(ぼさつぶ)如来部(にょらいぶ)明王部(みょうおうぶ)が暮らしている空居天(くうごてん)ね。その空居天(くうごてん)のうちの一つが兜率天(とそつてん)よ」

 その文に書かれていたのは、


――我が煩悩の一部が人間界に住む者に宿ってしまった。至急監視せよ。


 この一文を見た帝釈天(たいしゃくてん)は、自らの娘である瑠璃(るり)に監視の任を与えようと思っていた。

「ここからは、私がお話させて頂きます」

 名前が出て時点で自分が話そうとしていたのだろう。吉祥天(きっしょうてん)は、後は任せたと、軽くポンポンと叩いた後、奥の間へと消えていく。

「私は母様に妹がいることを知っていました」

「その言い方だと、会ったことはなかったって事だよな?」

「はい。私も、そこにいる桃華(とうか)お姉様も、ついでに炎輝(えんき)も、先の戦いの後生まれましたので」

「ふん!」

 どうやら桃華(とうか)はお姉様として扱われるのが不快のように見える。瑠璃(るり)は少しだけ悲しい顔をした後、話を続ける。

「私はどうしても会ってみたかった。だからお父様にお願いしたのです。人間界に行くのならば桃華(とうか)お姉様と一緒がいいと」

 帝釈天(たいしゃくてん)は二人だけでは無理があると、もう一人同行するならいいだろうと、たまたま喜見城(きけんじょう)に滞在していた迦楼羅王(かるらおう)に頼んだらしい。

「僕は喜んで承りました。人間界に興味がありましたし」

「ふむ、炎輝(えんき)はいいとして、桃華(とうか)はよく了承したよな」

「……私は天上界に上がって自分の弱さを思い知った。最初は帝釈天(たいしゃくてん)をこの手で斬るつもりで天上界に上がった。でも、須弥山(しゅみせん)の麓でそれが慢心だと知った」

「何があったんだ?」

須弥山(しゅみせん)を登るには四方の門のいずれかを通らなければならない。そこを守護しているのが四天王と呼ばれている四人の神々だ。東勝神州(とうしょうしんしゅう)を守護する持国天(じこくてん)、南セン部州(なんせんぶしゅう)を守護する増長天(ぞうちょうてん)西牛貨州(さいごけしゅう)を守護する広目天(こうもくてん)、そして北倶廬州(ほっくるしゅう)を守護する多聞天(たもんてん)の四人の事で、私達は多聞天(たもんてん)が守護する門を通ってきたのよ」

「ほう――戦って負けたとかか?」

「いいえ、戦いにすらならないと悟ったのよ。私は多聞天(たもんてん)の姿を見て震えていた……動くことすら出来なかったの。私がここにいるのは強くなるため!」

「ここにいて強くなれるのか?」

「分からない……でも修羅界(しゅらかい)に帰っても強くはなれないと思った」

「僕は色んな事を学ぶため――」

「あっ、男に興味はねぇ」

 ガクッと項垂れた炎輝(えんき)は部屋の隅に移動する。

「何となく関係性も分かった。自分が目を付けられている理由も分かった。それを踏まえた上で、一つだけ言わせてくれ」

「はい、何でしょう?」

「腹が減った!」

 地響きの様な腹の音を鳴らしながら訴えると、奥の間から吉祥天(きっしょうてん)の大きな笑い声が聞こえてきた。


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