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戦天女の黙示録  作者: 平平
二章 夜叉の子 那由多
30/37

其の一

 天上界にある夜叉王の居城では、戻ってきた密偵からの情報報告が行われていた。

 天龍八部衆が一人、夜叉王。武も然ることながら、隠密に長けた夜叉一族の王である。

 天上界のありとあらゆる情報がここに集まっていると言っても過言ではない。

 阿修羅王が天上界に姿を現した時、須弥山に異変が起こる可能性があると察し、色々探っていたのだ。

 帝釈天、阿修羅王、人間界、そして梵天。その全てを探り終え、夜叉一族がとるべき道を決める算段だ。

「ふむ……帝釈天は全面的に吉祥天の後押しをしている。その吉祥天が囲っている人間については不明瞭な点が多い……か。弥勒菩薩の命令らしいが、流石に内容までは分からぬか」

「はっ! その人間に弥勒様の一部が宿っているとの事ですが、確証は持てませぬ」

「阿修羅王は……修羅界に戻った後は、我関せずの姿勢。娘に〈修羅刀〉を授けているのを鑑みるに、全てを娘に委ねている……と思ってよいか」

「瑠璃様も炎輝も同じ様に継承法具を譲り受けております!」

「ふむ。迦楼羅王はさておき、帝釈天が〈金剛杵〉を手放したのは予想外だな。その人間にそれだけの価値があるという事か……」

「後、梵天に関してですが……未だ、消息不明です。風神雷神に接触したらしいのですが、本人は動いておらず、尻尾を掴む事が出来ませんでした」

「続けて報告致します。風神雷神の子が人間界に留まっております。弁財天が作り出した浮島で戦があったと予想されますが、浮島に密偵を送る事叶わず、詳細は不明です」

「こちらからも報告致します。現在、風神雷神、共に消息不明です。どうやら身を隠したか、それとも……現在、全力で捜索しております」

 夜叉王の前で戻ってきた密偵達が次々に結果報告していく。

「かなり前からですが、梵天は謀反を企てていると噂されております。帝釈天と阿修羅王の戦い以降、姿を見た者もございません故、黒い噂が後を絶ちません」

「今回の風神雷神の件が須弥山に広まりつつあります。一部では、吉祥天も謀反を企てているなどの噂も……」

「頭が痛くなるのぉ……」

 頭を抱えている夜叉王の前に、最後の密偵が報告を始める。

「風神雷神の件で追加致します。人間界から戻ってこない空臥、凛に対し、四天王が動き始めました!」

「正式な命令もなく人間界に滞在する事は禁止されておるからな……問題は山積みという事か。四天王については俺が止めに入ろう」

 そう、選ばれた神々以外が人間界に干渉するのは禁止されているのだ。現在許されているのは、吉祥天、歓喜天、韋駄天、摩利支天(まりしてん)の人間界の守護を任されている四人。そして、帝釈天が命を下した桃華、瑠璃、炎輝の三人とそれに関係した弁財天と杏の計五人。

 この五人に関しては、弥勒菩薩の名のもとに、帝釈天が命を下している以上、須弥山の住人の誰もが文句を言えない。

 一時的に人間界に降りるならお咎めもないのだが、それには期限が設けられているのだ。その期限を超えると、最悪の場合、処刑となる。

 そして、空臥と凛はその期限を過ぎていた。

「四天王をお止めになるならば、こちらは四天王が納得する何かを示さなければならないでしょう」

 そう言って夜叉王の前に出たのは、娘である那由多だった。

 膝をつき、短い銀髪を揺らしながら頭を下げている。

「ほう。何かとは何だ? 言ってみろ……いや、いい。お前の考えている事など手に取るように分かるわ」

「それはそれは。――空臥と凛は僕の部下だ。部下の粗相は隊長である僕が尻拭いをする。当然の事だと思いますが?」

 頭を下げているので表情は見えないが、夜叉王には見なくても想像出来る。

 今、那由多は絶対に笑っていると。

「娘の考えている事ぐらいすぐに分かるわ! お前、阿修羅王の娘が目的だろう?」

 そう言われて顔を上げた那由多はやはり笑っていた。

「あら? 流石はお父様! 僕、凄く興味があるなぁ……修羅刀を受け継いだ闘神の娘! どれだけ強いのか確かめてみたいと思うのは普通だろう?」

「……状況を分かっていて言っているのか? 梵天が怪しげな動きをしている今、噂が噂の域ではなくなるのかもしれないのだぞ? 下手すれば帝釈天と梵天が須弥山を二分する戦いを始めるのかもしれんのだぞ?」

「そうなると、かつての帝釈天と阿修羅王の戦い以上の争いになるだろうね。――僕はこの流れはもう止められないと思っている。遅いか早いかの問題だと思うんだ」

 そう言った那由多の目は、正しく獲物を狙うそれった。

 王に訴えている。

 継承法具を自分に譲れ! と。

 夜叉王の継承法具〈冥狼砕牙(めいろうさいが)〉。手甲である冥狼砕牙は、立ちはだかるものを砕くと言われている。

「……阿修羅王も帝釈天も子に託したか……いいだろう、お前に冥狼砕牙を譲り渡そう。その意味、分かるな?」

 王の座は譲らずとも、夜叉一族をどのように導くのかは那由多に託される。

「理解はしていますよ。有りがたく頂戴します」

 冥狼砕牙を受け取った那由多は、意気揚々と城から出て行く。

 そのまま、寄り道をする事もなく、真っ直ぐに人間界へと降りていった。


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