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戦天女の黙示録  作者: 平平
一章 風神、雷神
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其の十八

 島の七割は平原と言ってもいい平な大地だ。見渡しのいい場所に凛が立っている。

 雷光斧を二本持って身構えている後ろで空臥が軽くジャンプを繰り返している。

 対する桃華と瑠璃は隣同士で並んで身構えていた。

「瑠璃様は下がられてはいかがですか? これは真剣勝負です。出来れば戦いたくありません」

「賛成! 二対一なんて真似はしないよ? 桃華だっけ? あなたの相手は私がしてあがる!」

 凛は挑発をしつつ、ジリッ、ジリッとすり足で近づいていく。

「わ、私を侮るのですか? これでも鍛錬はしています。遠慮無くかかってきなさい!」

 前に出ようとした瑠璃を〈修羅刀〉で制止した桃華は、小声で確認をした。

「下がってもいいよ?」

 首を小さく左右に振った瑠璃は〈金剛杵〉を前に突き出すと、先制攻撃の〈光矢〉を繰り出した。

「仕方がありません。――行くぞ、凛!」

 その言葉と同時に空臥は大きく手を振り、風を作りだした。


「疾風!」


 〈光矢〉を〈雷光斧〉で払いのけた凛は、左右の斧をぶつけ合い大きな金属音を打ち鳴らす。

 その瞬間、斧の前にはバチバチと放電している玉が発生した。それを両刃の斧の斧頭で叩いた。

 野球のボールを打ったかの様に雷球は空臥が放った風の中へ消えていく。


「迅雷!」


 雷を飲み込んだ風は、小さな竜巻となり、更には雷を帯びているのか稲光を撒き散らしながら猛スピードで二人に襲いかかる。

「ちっ、避けろ瑠璃っ!」

 身体がガチガチに固まって動かない瑠璃を、強引に突き飛ばして竜巻の攻撃範囲から逃がすと、逆方向に飛んで回避しようとする。


「逃さん! 〈風鎖縛〉!」


 突然、桃華の動きが鈍くなる。その原因は風。身体の前後左右から襲いかかり身動きが取れないのだ。

 だが、それも一時の事。


「はぁぁぁッッッ!」


 気合を入れ、風を弾き飛ばす。だが、時すでに遅し。桃華が動きを止められたほんの数秒で、最初に放たれた疾風迅雷は避けられなくなっていた。

 飲み込まれた桃華の全身は、雷の鎖で縛られたかの様に、至る所でバチバチと音を鳴らしながら螺旋状に空へ昇っていく。

 異物を吐き出すかの様に〈疾風迅雷〉から吐き出された桃華は重力に導かれ落下を始めた。

 空臥はチラッと瑠璃に意識を向ける。突き飛ばされた瑠璃は女の子座りをしたまま動く気配がない。


「……これが実戦ですよ、瑠璃様。――いけよっ〈風切〉!!!」


 ここで瑠璃がそれなりの対処が出来ていたなら、空臥は瑠璃の相手をしていたのだろう。だが、瑠璃は何も出来なかった。その結果、全ての攻撃が桃華に向く。

 空臥が投げた〈風切〉は、一気に八つに分かれると一斉に襲いかかる。


「その程度!」


 自由落下中で動きが制限されている桃華だったが〈修羅刀〉で〈風切〉を一つずつ的確に叩き落としていく。

「!!! 動けるだと?」

 本来なら、凛の雷の影響でまだ身動きが取れないはずだった。だからこその〈風切〉の攻撃だった。

「宇賀ちゃん、説明してくれ」

「……風神と雷神は……阿修羅一族の法術防御力を侮っていた……いや、知らなかった……のかも」

「法術防御?」

「……阿修羅一族は強い……その理由の一つが……その法術防御の高さ」

「ここからは私が説明してあげる」

 いつの間にか吉祥天が後ろに立っている。

「地水火風……まぁ他にもあるけど、阿修羅一族は全ての法術に対して抵抗力があるのよ。例えば十の力で攻撃しても、受けるダメージは一から二程度って所かしら。――阿修羅一族と戦うなら純粋な武力でいくのが定石ね。まぁ、その武力も半端ないのだけど」

「何だそれ? めちゃくちゃ強いじゃねぇかよ!」

「そう。だから闘いの神と言われているのよ」

「凛さんが動きましたよ!」

 炎輝の言葉で浩介は再び闘いに目を向ける。

 風切を叩き落とし始めた時点で凛は次の手を打っていた。

 落下中の桃華の背後を狙って飛び上がり、二本の〈雷光斧〉をえびぞり状態から豪快に振り落とす。

「後ろががら空きだよ!」

 体勢を制御出来ない桃華は、八つ目の〈風切〉を払いのけると同時に〈修羅刀〉で防御した。

 激しい金属音が鳴り響くと、桃華はありえないスピードで地面に引き寄せられていく。

 浮島が割れるのでは? と感じてしまうほど豪快に叩きつけられると、土煙が舞い上が

り、その場所を覆い隠す。

 すかさず空臥は、その土煙を風で吹き飛ばすと、そこには〈修羅刀〉を地面に突き刺し片膝をついている桃華の姿があった。


「ふふっ……ふふっははははっ! なんだ、そのデタラメな強さは! 傷一つないなんてよっ……」


 頭に手をやり笑っている空臥は自信喪失していた。これで倒せるとは最初から思っていない。いないが、傷一つないのは誤算である。

 それは凛も同じだった。着地した凛は、続けざまに攻撃を続ける事はなく、後ろに飛び距離をとって身構えている。どう攻撃したらダメージを与えられるのか分からなくなってしまっていたのだ。

 蚊帳の外だった瑠璃は、桃華が叩き落とされた時の衝撃で、ようやく我を取り戻した。

 二人が動かないうちに急いで桃華に駆け寄ると、背中合わせになり〈金剛杵〉を握りしめる。

「申し訳ありません、お姉様。私はもう大丈夫です」

「ゆっくりしていても良かったのよ?」

「お優しいのですね。――ですが、お断りしますわ」

「そう。――じゃあ、さっさっと終わらせて湯浴みでもしようか!」

「それは良い考えです。では、これからどうしまようか?」

「私にそれを聞くの? 頭を使うのはあなたの役目でしょう? 瑠璃!」

 桃華には戦略も戦術も関係ない。本能の赴くままに。それしか出来ないのだ。

「そうですわね……では、私が凛の相手をしましょう。同じ雷を使う者同士、雌雄を決する。というのはどうでしょう?」

「分かった。――じゃあ、行くよっ!」

 合わせた背中が反発するかの様に一瞬で離れる。桃華が一気に空臥の方へと飛び出したのだ。

 赤髪を靡かせ、瞬く間に距離を詰めると〈修羅刀〉を横一閃!

 だが、刀の風圧に身を任せた空臥はスゥーとその場から居なくなる。

「ちっ……面倒くさい相手だ」

「お前とは相性がいいみたいだが、あいにくと凛が心配なのでな。このまま瑠璃様を叩かせてもらう!」

 数秒しか止められないと分かっていても、再び〈風鎖縛〉を繰り出す。が、桃華の周りに風が発生する前に、刀を一振りし前方の風を刀の風圧で払いのける。

「それはもう知っている!」

 桃華は大地を蹴り飛び出す。その蹴り足が強すぎるのか大地が陥没してしまい本来のスピードが出ないまま空臥の後を追う。

「凛!!! 変われ! 俺が瑠璃様の相手をする!」

 そう叫びながら、今度は瑠璃に〈風鎖縛〉を放った。

「空ちゃん!」

 身動きが取れなくなった瑠璃の横を通り過ぎていく凛。

 そのまま迫り来る桃華に正面から挑んでいく。


「うぉぉぉぉぉッ!!!」


 二人の法具が大きな音を立ててぶつかり合う。

 力勝負に勝ったのは桃華だ。吹き飛ばされた凛に追い打ちをかけようと〈修羅刀〉を振り上げた。

「くっ……なんて馬鹿力。――あっ、ごめんなさい。あなたは馬鹿だったわね!」

「人に馬鹿だと言う方が馬鹿だと教えてもらったぞ。だからお前の方が馬鹿だ!」

 お互いに馬鹿だと罵り合いながらも〈修羅刀〉と〈雷光斧〉がぶつかり合う。

 下がりながら防戦一方だった凛は、この状況を打破するため〈雷光斧〉の一本を桃華に向かって投げつけた。

「やけくそというやつか?」

 軽々とそれを避けた桃華は、鼻で笑いながら〈修羅刀〉を振り下ろす。

「あなたの攻撃を受けるのに片手じゃ辛いのよ!」

 両手に持ち直した凛は、真上から迫り来る〈修羅刀〉をすくい上げる様に払うと、バックステップで一旦距離を取った。

 凛が〈雷光斧〉を投げた理由は三つ。一つは自分で言った通り両手持ちにしたかった事。次に何度も〈修羅刀〉の攻撃を受けていた〈雷光斧〉がもたなくなってきていた事。そして、最後。

「ん?」

 飛び込みながら袈裟斬りの体勢に入った桃華だったが、途中でそれを止めると、首の後ろを守る様に〈修羅刀〉を後ろに回す。

 ブーメランの様に戻ってきた〈雷光斧〉は〈修羅刀〉に当たると、弾かれてそのまま地面にドサッと落ちた。

「あなた後ろに目でもついているの? ちょっとは隙が出来るかなって思っていたのにィィィ!」

 〈雷光斧〉を投げた最後の理由がこれだった。しかし全くといっていいほどに意味はなかった。

「いや、音が聞こえたし。ほっといても良かったんだけどね。あれ、もう壊れていたでしょう? 音が違ってたわ」

 どうやら桃華は〈雷光斧〉が自分の横を通り過ぎていく時の音で壊れていると気づいていたらしい。そんな物が自分に当ったとしても問題ない。そう言っているのだ。

「はぁ? 何嘘ついているのよ! 壊れてなんていないわ! 壊れかけだったのよ! それに当たれば痛いに決まっているじゃない! 何が「ほっといてもいい」よ! 見栄はってんじゃないわよ!」

「う、五月蝿い! 見栄なんてはってないわよ! そりゃ、ちょっとは痛かったかもしれないけど……それでも大丈夫なのよ!」

 この戦いで始めて動揺を見せた桃華の隙を凛は見逃さない。

 防戦一方だった凛は、ようやく先手を取ることに成功すると、息もつかせない連撃を繰り出した。

 最初は勢いよく振るっていた凛だが、徐々にそのスピードは落ちていく。

 そう、もう一本の雷光斧ももたなくなってきているのだ。力一杯で振り下ろす事が出来なくなってきた凛は、後ろに飛びながら雷撃を繰り出す。

 それを手で払いのけた桃華は、そろそろ楽しい時間が終わる事を察した。

「くそっ……せめて技の一つでも出させないと死んでも死にきれないわ!」

「技?」

「そうよ! とっておきの技とか持っているでしょう?」

 桃華は〈修羅刀〉を地面に突き刺すと、頭をポリポリ掻きながら考えだす。

 それを見た凛は、呆れて言葉も出ない。


「……ない」


 凛の口はあんぐりと空いたまま、時が止まったかのように固まっている。

「はぁ?」

「だから、ないんだ」

「何がよ」

「お前が言っているような技ってやつがさ。――私は力の限り〈修羅刀〉を振り回す。ただそれだけだ。もしかしてお前はその「とっておき」がまだ残ってるのか!」

 再び時間が止まる。

その間、二人は見つめ合っていた。


「………………はぁぁぁぁぁ? 何それ! ふざけないでよっ! 阿修羅一族ってちょっとおかしいんじゃないの? あぁ、もう……こんなのに負けるだなんて……いやいや、まだ負けたわけじゃないわっ!」


 顔を真っ赤にして怒り狂う凛。

 それを見て、少し申し訳なさそうになったが、すぐに切り替える。

「とっておきってのを早く見せてよ! それを叩き潰して……私が勝つ!」

「いいわよ! 見せてあげるわ! どうせ勝てないだろうけど、空ちゃんの助けにはなるはず!」

 桃華のデタラメな強さに対して、もうヤケクソになるしかない凛は〈雷光斧〉を天に掲げる。

 上空に雷雲が発生すると、稲妻が〈雷光斧〉めがけて何度も落ちていく。

 身体全体が黄色い光に包まれると、渾身の力で雷光斧を振り下ろす。


「くらいなさい! 豪雷(ごうらい)……光裂波(こうれっぱ)ァァァ!」


 本来なら二本の斧から放たれる巨大なエックス状の雷撃なのだが、残念な事にスラッシュ状だ。あまりに巨大すぎて避けるという選択肢は用意されていない。

 桃華は〈修羅刀〉を横に構えると、それを受けきる覚悟をした。

 雷撃に包まれた桃華は、この戦いで始めて大きな声を上げる。


「うがぁぁぁぁぁぁッ!」


 いくら法術防御の高い桃華でも、今回ばかりはダメージを受けたらしい。

 桃華を包んでいた雷撃は徐々に収縮し、辛うじて全身を包む程度の大きさになっていた。

「……中々の攻撃だった。結構痛かったよ。――それじゃあ終わらせ……!!!」

 攻撃が終わったと思い込んでいた桃華の目に映った物……それは巨大な雷球だった。

「残念ね。まだ終わりじゃないのよ。もう少しだけ私と遊んでよね……」

 凛が放った雷球は、それほど早くなく、簡単にかわせるものだったが、避けても、避けても桃華の後を追っていく。

 桃華を包んでいる雷撃が雷球を導いているのだ。

「そういう事……だったら、受けきってあげるわ!」

「……ふぅ……全部出しきった。もう、立っているのも……無……理……み……たい」

 手から〈雷光斧〉が落ちると、そのまま凛は後ろに倒れていく。

 〈修羅刀〉で雷球を切ろうと、桃華も渾身の力で刀を振り下ろす。

 だが、雷球を止める事は出来ず、雷球と雷撃が触れ合った。

 その瞬間、ミサイル攻撃でもあったのか? というぐらいの大爆発が起こった。


「マジかよ」


 浩介は思わず立ち上がると、爆心地に向かって走りだした。

 しかし、熱と煙で中々近づく事が出来ない。少し離れた場所から見ている事しか出来ない。それがとても歯痒い。

 浩介は今回の闘いを軽く見ていたのだ。まさか、本当に生死を賭けた闘いになるとは微塵ほどにも思っていなかった。

「なんだよ、これ……限度ってものを知らないのかよ? お前ら、馬鹿じゃねぇのか? 誰かが死ぬとか……絶対……嫌だからな!!!」

 大声で叫ぶ浩介。

 徐々に爆煙が収まり始め、その爆心地が姿を現していく。

 そこには一つ人影が見える。

「桃華ァァァ!」

 どうやら無事だったみたいだが、鎧は吹き飛ばされ、あちらこちらから血を垂れ流している。

 桃華は大声で叫び声を上げると、ゆっくりと倒れている凛の元へと歩いて行く。

 そして、凛の元へ辿り着いた桃華は〈修羅刀〉を首元に突きつけた。

「……私の勝ちだ」

「そうみたいね……さぁ、止めを刺しなさい」

「あぁ。楽しかったよ」

 突きつけた剣先を、そのままゆっくりと押し込んでいく。

 だが、それを邪魔する者が居た。浩介だ。


「止めろォォォォォォ!」


 剣先が少し喉に入ったところで桃華は振り返った。

 凛の首筋に血が一筋。それを見た浩介は慌ててハンカチを取り出すと傷口に当てた。

「何故止めるの?」

 浩介はゆっくり振り向くと、いつもと変わらない桃華が立っている。

 変わっていないからこそ、浩介は嫌な気分になってしまった。

「何故? そんなの簡単だ。俺の愛人だからな」

「ち、違う」

 凛は否定するが、二人の耳には届いてない。

「勝負はついただろう? お前の勝ちだ。それでいいじゃねぇか!」

「まだ、勝負は決していないよ。その子の首を落として初めて私の勝ちになる」

「……凛はもう抵抗も出来ないだろうがっ!」

「だから何?」

 浩介を鬱陶しく感じた桃華は、首根っこを掴むと、軽く投げ飛ばした。

 そして、再び刀を突き付ける。

 投げられた浩介の目の前には〈雷光斧〉。

 それを手に取ろうとするが、重すぎてなかなか持ち上がらない。

「くっそ……なんでこんなに重いんだよっ……おぉぉりゃぁぁぁっ!」

 右へ左へと流されながらも、なんとか〈雷光斧〉を構える浩介。それを見た桃華は刀を浩介に向ける。

「なんのつもり?」

「馬鹿かお前は? そんなの、決まっているだろう!」

 桃華のイライラが募っていく。どうしてこんな事をするのだろうか? 闘いに勝った者の権利。負けた者の運命。とても普通で当たり前の事。

 そう、修羅界では普通の事なのだ。

 浩介の行為は、今までの自分を否定されている気がしてイライラするのだ。

「俺は平和ボケした世界で生きてきたからな。納得いかねぇんだよ!」

「そんなの……そんなの、知らないわよっ! 私の世界じゃあ……」

「なぁ、頼むわ、桃華。退いてくれよ……」

 いつも楽しそうにしている浩介が初めて悲しい顔をしている。それが桃華の中の何かを刺激する。

(そんな目で私を見るな! そんな目で……私を……見るなっ! 違うだろう? お前はそんな顔をする男ではないだろう! その目を……やめろォォォォッ!)

 前に翳していた〈修羅刀〉がダランと下がっていく。桃華は何も言わずに振り向くと、闘っている空臥と凛が居る方へと歩き出した。

「……ふぅ。怖かった。マジで怖ったぜ。――ちょっとだけ漏らしたかもしれん」

 〈雷光斧〉を手放した浩介は、腰をトントンと叩きながら倒れている凛の所へ行く。

「どうしてこんな事をした? 私を助けて慰みものにでもする気?」

「ふむ。それはそれでいい考えだが、俺の趣味じゃあないな」

「……私は死を受け入れていたのよ? 余計な事をして欲しくはないわね」

「知らねぇよ馬鹿。お前らの都合なんてどうでもいい。俺がそうしたいと思ったからしただけだ。――それに、俺の知り合いにな、死にたくないのに死に怯えながら頑張っている子が居るんだよ。だから生きるチャンスがあるのにそれを放棄する奴も、それを奪う奴も許せねぇ。本当に死にたいと思っているなら、俺の知らない所で勝手にやってくれ」

「ははっ……なんて我儘な奴。――このまま消えていればこんな思いせずに済んだのに……悔しいよ。負けたのが悔しいよぉぉぉl!」

「いい事じゃねぇか。いっぱい悔しがって、いっぱい泣いて、その後、強くなればいいんじゃね?」

 凛は空を見つめながら悔し涙を流していた。

 浩介は自分がここに居ても何もしてやれないと察して立ち上がると、黙って凛の元から去っていった。

 立つ気力もない凛は、溢れ出る涙を何度も、何度も拭いながら、声を殺して泣き続けた。

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