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戦天女の黙示録  作者: 平平
一章 風神、雷神
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其の七

一方、天上界では帝釈天(たいしゃくてん)に呼び出された弁財天(べんざいてん)喜見城(きけんじょう)に訪れていた。

 背負っている琵琶が大きく見えるのは、弁財天(べんざいてん)が小さいというだけである。

二倍弱程ある警備兵達が、通り過ぎていく弁財天(べんざいてん)に頭を下げていく。身体の大きい神は珍しくないのだが、その反対となれば別である。

 人間界に降りている炎輝(えんき)の様に、成長過程で身体が小さいというのは普通なのだが、弁財天(べんざいてん)は身体的な成長を期待出来ない。というか無理なのだ。

 そもそも、桃華(とうか)達の様な〈神の子〉とは違い、帝釈天(たいしゃくてん)などの〈名のある神〉は、生まれた時からその姿なのだ。だから、望まずして弁財天(べんざいてん)須弥山(しゅみせん)では目立ってしまうのだ。

 帝釈天(たいしゃくてん)の待つ部屋の前まで案内されると、少し高い位置にあるドアノブに警備兵が手を伸ばそうとするが、弁財天(べんざいてん)はそれを拒否するため(ばち)で手の甲を軽く叩く。

 背伸びをして、ようやく掴んだドアノブが回ってしまうと、それにぶら下がったまま部屋の中へと入ってしまった。

 弁財天(べんざいてん)は何事も無かったかのようにテーブルの前に歩いて行くが、残念な事に、向こう側に居るはずの帝釈天(たいしゃくてん)の姿が見えない。琵琶を降ろした弁財天(べんざいてん)は、用意されていた特別製の椅子にヒョイと飛び乗った。

「急に呼び出したりしてすまないな」

「……それはいい……要件を……言って」

 か細い声で受け答えをする。長文を話すのは苦手な弁財天(べんざいてん)は、言葉の節々で休憩の様な間を取ってしまいがちなのだ。

「では、早速命令を下す。――人間界に降り、吉祥天(きっしょうてん)の」

「……いや」

 断られるだろうとは思っていたが、まさか話の途中で断られるとは思っていなかった。

「いやな、話は最後まで聞いてくれてもいいのではないのか?」

「……私……功徳(くどく)……嫌い……知っているはず」

「あ、あぁ。勿論、勿論だとも! 重々承知の上だが、吉祥天(きっしょうてん)がお前を指名しているのでな」

 スゥーと大きく息を吸い込んだ弁財天(べんざいてん)は、

「女好きの帝釈天(たいしゃくてん)功徳(くどく)に籠絡された。その上、私のような忠臣の事などどうでもいいと、嫌がる私の気持ちを無視し功徳(くどく)の元で働けという。王の命令とあらば従うしかないのかぁぁぁ。――でも……いや」

 過剰演技で声を荒げている弁財天(べんざいてん)を横目に、帝釈天(たいしゃくてん)は項垂れる。

「……どうした? ……もう少し……続けるか?」

「もうよい。こちらが悪かった。――命令ではなくお願いだ。お前に頼るしかないのだ」

 テーブルを粉砕してしまうかの如く、自分の額を豪快に打ちつけながら懇願している。これが本当に王なのか? と、もし、この場面を見ている者いたらそう思うに違いない。

「……どうした? 机……濡れてる……涙?」

「違うな。私がこの様な事で涙を流すと思っているのか? これは、あれだ! 唾液……そう、唾液だ! 最近、口の締りが悪くてな」

「……そうか……帝釈天(たいしゃくてん)の口は……だらしがない……だらしがない……だらしがない……」

「復唱はせんでもよい。――それよりも、お願いは聞いてくれるのか?」

「……大丈夫……最初から……聞くつもり……ただ……命令は嫌い……お願いなら……問題ない」

 こんなことなら、最初からお願いすればよかったと、後悔ばかりが押し寄せてくる。だが、すんなりと聞き入れてくれるのも問題だ。

吉祥天(きっしょうてん)弁財天(べんざいてん)須弥山(しゅみせん)では二大天女と呼ばれている。この二人はとても仲がよかったはずなのだが、人間界に降りる事になっていたはずの弁財天(べんざいてん)が、いつの間にか吉祥天(きっしょうてん)に変わったという時期から二人の関係がおかしくなった。

 理由を聞いても、二人とも話してくれる事もなく、二人の間に亀裂が入ったという事だけが広まっている。

「大丈夫……なのか?」

「……問題……ない……ただ……」

「ただ?」

「……功徳(くどく)は……一度……この手で……懲らしめる! 今回は……絶好の機会……功徳(くどく)……逃がさない!」 

 こうなるだろうとは思っていたが、予想通りすぎて溜息しかでてこない。

 吉祥天(きっしょうてん)がそれを予測出来ないとは考えられない。二人が戦う場が必要になるだろう。だが、人間界に被害をもたらすわけにはいかない。人間を守るのが神なのだから。

「致し方あるまい。天上界と人間界の結合を許そう。それが出来るのはお前だけだしな。――くそっ、あいつは最初からそのつもりで弁財天(べんざいてん)を呼んだか……」

 全ては吉祥天(きっしょうてん)の手のひらで遊ばれていたというのは癪に障るが、予想の範囲内ということで納得するしかないと思うしかなかった。

「……じゃあ……行ってくる」

「あぁ、よろしく頼むぞ」

「……うん……頼まれた」

 こうして弁財天(べんざいてん)は人間界に降りることになった。



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