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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

仮面一族の末裔達 番外編






 「生きて、あなたたちは生きるのです、アルザナルス、アンティローイ。」

 死ぬ前の母の言葉を、眠っていた僕の記憶の片隅から引き出す。血にまみれた母の姿を最後に僕の記憶は途切れてしまっている。僕の双子の片割れである弟も、結局生き分かれてしまい、今では生きているのかどうかさえ分かっていない。

 そう、最後に鏡の世界を越えて仮面界から人間界に来るまでは…。






 


 

 仮面一族の末裔達





 僕たちは、自分の持つ真の仮面を隠しながら…、この世に生きる。

 仮面一族に生まれ落ち、黒と白に分かれた運命は、やがて僕たちに何を与えてくれるのか。








 ヨーロッパ某所。

 ドラキュラが住みそうな城のチェロの演奏者として雇われ始めて、早5年という月日が経っていた。それを感慨深げに思考する暇が最近になってでき始めている。否、元からあったと言っても過言ではないが、早く仲間内でも上達したいと思い、練習に忙殺されていた。何にせよ仲間の屋内奏者達と共に、プロとしての仕事を任されたことは、奇跡といってもいいだろう。この王宮御用達の演奏者として呼ばれるなど本来はあまりない。仮面一族の今の状況を考えれば、音楽、芸術という平和的措置はなかなかに薄気味悪い物としてとらえても何ら遜色ないのである。いつ奴らが襲ってきて仮面を持つ人々を根絶やしに来るのか分かったものではないからだ。しかし、あえて城の中では、人間、また、黒の勢力が入って来ない限り、仮面はずっと装着するようにと義務化されている。この城内では、安心して黒の布製の覆面を取り付けられる。それはまるで、この世界で放映されている映画の怪盗のマスクの様だと同僚の誰かに言われたか…。だが、まだ危険の去らないこの状況下でありながら、長い年月を経て、未だに攻撃を仕掛けてこない黒の勢力が気になって仕方ない日々を送っている。あまり残ってはいない仮面の人々を闇の中で殺しているのであろうか。そう考えるだけで身震いがする。幼少期に生き分かれた弟アンティローイを探すことも、もはや難しいのではないだろうかと、半ば絶望にも似た気持ちのままで、こちらに来てあたえらえた自室の窓から外を見つめていた。

 僕たち一族に、平安が訪れる日は、一体いつになるのか。

 不意に、鏡の奥で、何か光った気がして振り返ると、そう、彼が鏡の中に立っていた。

「やあ、僕の片割れ♡」

 現れた彼の姿は、豪華絢爛な布地をふんだんに使用した、布地が幾重にも重ねられ縫い付けられたドレスのような装い。主に、ベースは赤黒い色を基調にしていただろうか。帽子も、手袋も、靴も何もかも豪華だ。突然の来訪者に僕は唖然とするしかなかった。

 そして、ある違和感に気づいた。

 鏡の中に立つ人物は、この人間界の某国のカーニバルで使用されるような、特徴的な仮面を付けている。そう、それは違和感から始まる。一般の仮面一族は、仮面の奥に瞳の表情が見えるという。しかし、彼の瞳からは、その人物の表情を見い出せない。総毛立った。呼吸の仕方が浅くなり、身体を動かそうにも、金縛りにあったように動けない。まるで、目の前に絶望しそうなほどの高度な崖によじ登り、崖下には海が荒波を引っ提げて獲物を捕えようと、今か今かと待ち伏せているかのようである。けっして出会ってはいけない瞳の奥が見えない、呪われた仮面を…、今、僕はここで見てしまっていた。

「お前、アンティローイじゃないな。去れ!」

 思い切って力を振り絞り、金縛りを解くと側に置いてあった小箱を鏡に向けて投げた。中に入っていた物も一緒に散乱し、鏡が盛大に割れる。

「失礼だな~、兄貴は…。生き分かれた僕のこと忘れちゃったんだね。かっなしー。けけけ。でもまた、迎えに来るからね♡それまでに、僕の仲間になるか決めておいてね。じゃっあねー。」

 鏡の破片の中で小粒程度の大きさの相手が無数にいる中、吐き気を懸命にこらえた僕は、奴の姿が消えたのを確認した後、大きなため息をついた。大きな物音がしたためだろうか、耳の奥の方で怒声が聞こえた気がした。どたばたと遠くの方から足音が聞こえたと思ったら、バンッと扉が開いた。ぼんやりとそちらに目を向けると同僚のハスヴェルンが肩で息をしながらこちらを睨みつけていた。

「おい!何があった!」

 必死の形相を貼りつけたまま、飛びかかられ肩を揺すられた僕は、ぼんやりと彼を見た。

「僕の弟に会った。奴は、もうこちら側の人間じゃなかったよ。」

「まさか。」

「そう、そのまさかさ。彼は、黒の勢力に寝返っていたんだよ。しかも、呪いの仮面付きでね。」

 頭を掻きむしりながら、僕は自分の弟に出会う前までとは違った絶望感に苛まれていた。

 殺してやりたい。

「あいつを生かしておいてはいけない。僕は何も分かっちゃいなかったんだ。あいつが悠々自適に、人の仮面を壊して生き長らえていたことなんて………全然知らなかったんだよ。糞っ。」

 怒り、悲しみ、憎しみ、全ての感情が綯い交ぜになって僕の心は、崩壊してしまうのだろうか。

「アルザナルス!」

 その厳しげな言葉に、アルザナルスの肩がまた、揺さぶられる。

「しっかりしろ。お前、まだ、命があるだけましだぜ。良く生きていられたよ。それもこれも、あいつの兄だったからだろう?この城内に奴が入って来れるということは、その時が来たということだよ。そうだろう?もういいかげん覚悟を決めてくれ。」

 そう、僕の中にあった迷いはすぐに消えた。今年、17歳を迎える僕は、この時呪われた仮面の追尾者であるキスリーフへの転身を決めたのであった。

「お前、楽師やめて、俺と一緒に弟殺しの旅に行こうぜ。」

 そう、ここから僕の物語が始まる。

 彼の方から会いに来るであろうことも分かっていた僕には、それでも、その前に自分で見つけ出して殺しに行くことぐらいできると思っていた。


 鏡は割れ、僕の元に1つの感情を植えて行った。その宿主を探そう。

 たとえ、何年かかっても、何十年かかっても、僕はきっと彼を見つけ出す。


この小説は、やがて長編になる予定の物語です。

一応、番外編という形で、人間界にいる仮面界の人達のことも書けたらと思います。

長編の用意ができ次第、『仮面一族の末裔達』というタイトルでお届けしたいと思います。

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