いちゃらぶ王城記
「貴様のほうがよく知ってると思うが──私はチョロい」
俺の恋人がなんか言い出した。
ここは王城であり、つまり俺たちの職場なわけで、今俺たちは職務時間なため、要はそんなことを話している場合ではないはず。
ただ、俺は職務に全く忠実ではなく、恋人との雑談を優先したいタイプだった。
「チョロ、い…………?」
あなたを口説き始めて、4年の月日を必要とした俺からすれば、チョロさは欠片も感じられないんですけど。
「逆に考えろ。貴様との出逢いは、4年ほどの月日が必要になるほど最悪極まりないものだった、と」
「入学式で席が隣だっただけだよ」
「え?」
「え」
「同窓生……?」
「どんだけ学生時代の俺のことが、眼中になかったの!?」
確かに、会話量とかは、卒業してからの方が圧倒的に多いけども。
「私が高嶺の花だったばかりに」
「高嶺の花側は、高さを自認しないで欲しいなあ」
「あと、身分差」
「それはそう」
「平民出身だからな、私は。貴族様の貴様とは、低みが違う」
「高いのか低いのかもうわかんねえな」
どうして彼女が高嶺の花をやれていたか。
端的にいえば、才能だった。女神様たちから加護を受けまくっていたがゆえ、凄まじかった。
本来、女神様の加護なんてものは、ひとつでも一生暮らしに困ることはない。積極的に、国が囲いに来るからだ。
それを、まさかの複数。
結果、各家子弟から求婚を受けまくっていた。それはもう、相当に受けていた。そりゃそうだ。加護もちなんて珍しい存在は、みんな家に欲しい。そのうえで、女神たちの一人が、求愛の加護を授けていたものだから、もうわけがわからなかった。
女神の一人が、規律の加護を授けていなかったら、学園は崩壊していただろう。
「というか、よく、断れたよね、あの求婚の群れから」
「結婚の女神様が、あの連中の大半に唾を吐いていてな」
「ええ……」
「いわく、『うちの旦那に似てる。だめ、絶対。ろくなやつじゃない、本当に!!!』と」
俺は彼女に向けて剣を刺す。彼女は、首を傾ける。
悲鳴が聞こえた。
「旦那の主神ぇ……」
「で、貴様に至った訳だ」
しゅぱぱんと軽い音を立てて、俺に向かって魔法の火矢が、彼女から放たれた。半歩身体をずらした。ぼたぼたと天井から人が複数落ちてきた。火矢に焼かれたらしい。
「どう考えても、あなたは、チョロくなかったよ」
よく俺は彼女を口説けたな。
「うん?話がズレてるな」
彼女が床を踏んで軽く飛び上がる。俺は上体を折り曲げる。
彼女は俺の背中の上を半回転しながら、天井に再度魔法を放った。どぱたんと人が落っこちてきた。
「チョロいのは、今の私だ」
「そうかな」
「そうだぞ」
地面に降り立った彼女は、俺のすぐ隣に立った。顔が近い。
そこで、気づいた。
「ネックレスしてくれてるじゃん」
「嬉しかったし、気づいてほしいから、な」
はにかむ俺の恋人。俺は照れた。
ついでに、思いっきり右脚で蹴り上げた。ぎゃっと、短い悲鳴。
「どう思う?」
「似合ってるし、さすが俺って思った」
「素直に、私を褒めろ」
彼女は呆れたように笑う。気づいたらめちゃくちゃデカい魔法陣が構築されていた。その魔法陣が、城全体を覆った。
「なんでもいいんだが。余がいることを、忘れないでほしい」
「なんだ、護衛対象」
「ちゃんと守りましたよ?」
「お前らな。余が学園の同窓生だからって、気軽にいちゃいちゃしながら、刺客どもを掃除するのはやめてくれよ、本当に」




