2番目アリス
“2番目”のアリスが来るまでは、みんな笑っていた。
平和だった。楽しかった。嬉しかった。幸せだった。
――――2番目の少年アリスが来るまでは――――
「ア…リスは…逃げて…下さいっ…!」
「白兎ッ!!!」
紅に染まった白兎を見て、“1番目”のアリスが叫ぶ。
「は…やく…逃」
―――パン
刹那、乾いた音が辺りに響いた。
「―――――――――――――――――――――――ッ!」
1番目の少女アリスが恐る恐る後を振り向いた。
そこには―――銃を持った少年アリスが立っていた。
「白兎さん、死んじゃった?」
ピクリとも動かなくなった白兎を見て、少年アリスは問いかける。
「どうしてっ!?どうして、みんなを殺すのよ!!」
今にも泣き出しそうな声で少女アリスが叫ぶ。
これまでにも、様々な少女アリスの友人が殺された。
帽子屋、三月兎、ハートの女王、チェシャ猫、トランプの騎士達、眠り鼠、そして白兎――。
全て少年アリスの手によって。
少女アリスは、いつもいつも問いかける。
―――どうして殺すのか、と―――
返ってくるのは、必ず同じ言葉。
「だって、みんな、僕を愛してくれないんだもの」
同じ理由。
「狂ってる。狂ってるわよ、そんなの…」
ぺたん、とその場に座り込む少女アリス。
「君には分からないよ。みんなから愛されていたからね。でも、僕は元の世界でも此処の世界でも愛されなかったんだからね」
哀しそうに儚げに笑う少年アリス。
「それは貴方がっ…!」
「僕が何をしたって言うの?」
実際、少年アリスは何もしていない。
「っ!確かに何もしていないけど、貴方には妙な空気があると言うか…。何を考えているのか分からない!吐き気がするのよ!!」
「…やっぱり、その理由なんだ。うん、分かった」
少年アリスは静かに呟いた。
そして、少女アリスの方を向き、残酷な笑みを浮かべた。
「ひっ!?」
思わず声を少女アリスはあげてしまった。
それほどの恐怖感が少女アリスを包んでいる。
「多分、君は知らないだろうけど理由はもう1つあるんだよ」
酷く酷く冷たい声。
その声で少年アリスは言葉を紡ぐ。
「君の存在だよ」
少女アリスの思考は停止した。
「何を言って…るの…?私の存在が…?」
「そう、君の存在がね。君は1番目…つまり最初のアリスでしょ?」
「当たり前でしょ…?1番目なんだから…」
「君は最初のアリスだから、珍しがられた。そして友人となり、みんなから愛された。けど、僕の場合はどう?来た途端、みんなに避けられた。どうしてだと思う?僕がこの世界に入った事によって、みんなは君との繋がりが絶たれてしまうと思ったからさ」
何の感情も無く、ただ淡々と話す少年アリス。
「そこで問題。何故、僕が最初から君だけを狙わず、みんなから殺していったでしょうか?」
「?」
唐突の出題に少女アリスは、何を言っているのか理解できなかった。
「3、2、1、時間切れ。答えはね―――」
少女アリスは自らの耳を疑った。
その答えとは―――――
「――――みんなを殺せば、君を守る人がいなくなるから、だよ」
背筋がゾッとした。
「そして、みんなが殺されて絶望中の君を―――今、殺す」
「いや…いや…いやあああああああああああああああっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
逃げようとした。
だが、時すでに遅し。
―――パン
少女アリスの胸に弾丸が撃ち込まれた。
「がッ…!」
ドサリ、と地に堕ちる少女アリス。
「僕は君が憎くて憎くて仕方なった…!妬んでた!羨ましかった!殺したくなるくらいにね…!!」
自分の胸の内を語る少年アリス。
しかし、少女アリスからの返事はない。
「あはは、死んじゃったかぁ…」
嬉しそうに哀しそうに笑う、嗤う、哂う、わらう、ワラウ―――。
「また、独りぼっちだけど自由なんだ。誰もいない僕だけの世界…。少し寂しいなぁ…」
感情も無く言葉を吐き捨てる。
「独りになっちゃったけど、お茶会でも開こうか」
クスリ、と妖しく不敵に薄く微笑する。
「さぁて、次に来るアリス達は僕を愛してくれるかな?」
その後、少年アリスの手によって殺められた者は数知れず。
――――――ハやク ダれカ こナイかナ?――――――