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遅すぎた男

 物心ついた頃から、あいつは俺の隣にいた。

 互いの家にはよく遊びに行ったし、旅行やキャンプに行ったりもした。

 田舎で子供が少なかったせいもあるが、友達の中でもあいつといる時間はダントツに多かったと思う。

 中学に上がると、俺はあいつと遊ぶことを避けるようになった。あいつの制服姿を見た途端、異性を意識してしまったからだ。

 それでも、”ご飯を作ったから食べに来い”なんて連絡がくるくらいには仲が良かった。

 中学三年の時、あいつの家で、あいつの作ったハンバーグを食べながらこんな会話をした。


 高校、どこにするの?

 まあ、一番近いとこかな

 そっか


 俺の志望校は、あいつの成績だと少し難しいレベルだった。だから、とうとうあいつとも別々か、なんて思ったことを覚えている。

 だけど、あいつは同じ高校に入学してきた。

 入学式であいつの顔を見た時、やけにテンションが上がってあいつの頭を撫でまくった。あいつには滅茶苦茶怒られた。髪をくしゃくしゃにしてしまったからだ。

 高校三年間の中で、あいつと同じクラスになったのは二回。その度に”お似合い夫婦”なんてからかわれたけど、俺もあいつも全力で否定してた。


 あいつと一緒にいると落ち着く。

 隣にいるのがしっくりくる。


 それは確かにそうだけど、それが恋愛感情だとは思わなかった。何故なら、俺は中学でも高校でも、あいつではない別の女の子を好きになったのだから。

 高校三年の時、あいつの家で、あいつの作ったビーフシチューを食べながらこんな会話をした。


 やっぱり出て行くの?

 まあ、そうだな

 そっか


 俺は都会の大学に行くと言った。買い物するにも遊ぶにも苦労する田舎には、ずっと以前からうんざりしていたからだ。

 あいつは、残って親の手伝いをすると言った。あいつの家は喫茶店をやっていて、あいつがいないと店が回らなかったからだ。

 こうして、俺たちはついに別の道を歩むことになった。

 出発の日、早咲きの桜が咲く季節だというのに、手編みのマフラーと手袋を差し出しながら、あいつが言った。


 困った時はすぐ連絡しなさいよ


 マフラーと手袋を鞄に押し込みながら、俺が言った。


 お前は俺の母親か


 こうして俺は都会へと出た。




 田舎育ちの俺にとって、都会での暮らしは刺激的で楽しかった。

 買い物をする店も遊ぶ場所もたくさんあるし、バイトを見付けるのにも苦労しない。

 大学の勉強は大変だったけど、友達や先輩から”情報”を手に入れることができたので、単位を落としたことはなかった。


 毎日が楽しかった。

 毎日がハッピーだった。


 そんな日々の出来事を、最初のうちはあいつに知らせたりしていた。

 あいつからも、”よかったね”なんて返事が来たりしてた。

 だけど、段々その回数は減っていった。

 俺の中で、あいつや故郷の存在がどんどん薄らいでいった。


 だから、一年目の冬に届いた高校の同窓会の連絡には、欠席と返した。

 バイトが忙しかったし、遊びの予定も詰まっていたからだ。

 すると、速攻であいつからメッセージが飛んできた。どうやらあいつが幹事をやっていたらしい。

 俺は、”ごめん、忙しいから”とだけ返信した。

 あいつからは、”そっか”とだけ返ってきた。

 実家に帰ることもなく、俺の大学一年目は過ぎていった。




 二年目になると、ついに俺にも彼女ができた。

 サークルの一つ上の先輩で、超美人の陽キャだ。

 俺とは不釣り合いだと思いながらも全力で告白したら、”可愛いから許す”という謎の理由でオーケーがもらえた。


 俺は彼女に夢中になった。

 彼女の勧めで髪を染めた。

 生まれて初めてピアスの穴も開けた。

 バイトを増やしてブランドの服も揃えた。

 大きな声では言えないが、時々酒も飲みに行った。


 毎日が楽しかった。

 何もかもがバラ色に見えた。


 俺はその年の同窓会も欠席した。

 あいつからは、”今年も帰ってこないの?”なんてメッセージが来たけど、ちょうど彼女とデート中だったからそのままにしておいたら、結局返事を忘れてしまった。




 三年生になると、何となく将来のことを考える機会が増えてきた。

 それと関係あるのか分からないが、彼女とうまくいかないことが増えていった。

 彼女は四年生。俺より具体的に将来を考えていたのかもしれない。

 だけど、たぶん、すれ違いの原因は俺にあったんだと思う。


 都会の風景に心が躍らなくなった。

 流行の服が色褪せて見えるようになった。

 レストランの食事が味気なく思えるようになった。


 何かがしっくりこない


 俺は時々そう思うようになっていた。

 それが彼女への態度に出たのだと思う。

 彼女とはキスもしたし、大人の階段も上った。

 ベッドの中で卒業後の話をしたこともあった。

 だけど、どこか噛み合わなかった。

 何かが違う気がした。


 彼女の就職が決まった時、俺は別れを告げられた。

 ショックだったけど、仕方ないと思った。自分が悪いと思ったから、彼女にごめんと謝った。

 何となく気まずくて、この年の同窓会も欠席した。

 この時もあいつからメッセージが来たけど、返事はしなかった。

 そのくせ、この時俺は、”あいつの料理が食べたい”なんて勝手なことを考えたりしていた。




 俺は四年生になった。

 単位は十分取得済みで、卒業はもう見えている。あとは就職活動を頑張るだけだ。

 髪を黒く染め直し、ピアスを外して俺は就職活動に臨んだ。

 幸運なことに、時代は未曾有の人手不足。都会には求人が溢れている。さすがに大手は無理だったが、俺はそこそこの規模の企業からいくつか内定をもらうことができた。


 届いた内定通知を机に並べて俺は考えた。

 考えて考えて、考えた末に俺は……


 すべての内定を辞退した。

 理由は俺にもよく分からなかった。

 あえて言うなら、しっくりこなかったからだ。


 キャリアセンターの先生をヤキモキさせながら、四年生の秋が過ぎていく。

 やがて木枯らしが吹き出して、世間はクリスマスモードに突入していった。

 その頃になって、俺は思うようになっていた。


 今年は同窓会に出ようかな


 故郷を出て三年と九ヶ月。その間実家にすら帰っていない。

 就職も決まっていないのに、みんなと会うのは気まずかった。

 もしかすると、今さら何しに来たのかと冷たい目で見られるかもしれなかった。

 それでも、俺は思ったのだ。

 あそこに戻れば、何かが分かるんじゃないかって。


 俺は衣装ケースの一番下に眠っていたマフラーを引っ張り出して、首に巻いてみた。

 ミトンの手袋も両手にはめてみた。

 マフラーも手袋も、きつい防虫剤の匂いがした。

 だけど、マフラーも手袋もすごく暖かかった。

 懐かしい顔を思い浮かべながら、俺は同窓会に出席することを決めた。


 ところが、毎年来ていた連絡がその年に限ってこなかった。

 大学が冬休みに入っても、クリスマスが過ぎても来なかった。

 さすがに気になって、俺はあいつにメッセージを送ってみた。

 それに返信はなかった。

 既読にすらならなかった。


 一日待ってみた。

 二日目の朝、もう一度メッセージを送ってみた。

 三日目の朝、我慢できずに電話を掛けた。


 お客様のお掛けになった電話は、電波の届かないところにあるか……


 冷たい声にイライラしながら電話を切った。

 五分後にもう一度掛けてみたが、やっぱり出なかった。

 留守電にしとけよと毒づきながら三回目に期待したが、駄目だった。


 既読のつかないメッセージが十個並んだ。

 同じ宛先の発信履歴で画面が埋まった。


 あいつの実家の番号は知っていたから、電話を掛けようと思えば掛けられる。だけど、電話なんて小学校の時以来していない。一体何事かと思われるのがオチだ。

 だから、俺は自分の実家に電話をしてみた。

 何事かと驚く母親に、つまらない言い訳をしながらあいつの事を聞いてみる。

 その答えを聞いた俺は、思い付いた物だけを手に取ると、家を飛び出して駅へと全力疾走した。




 タクシーの中から見る町並みは、記憶のそれと変わっていないように思えた。

 ただ、細かく見ればいろいろ違っていたのだと思う。

 この時の俺は景色どころではなかった。

 手袋をした両手を握り締め、顔を半分マフラーに埋めながら、俺はただただ祈っていた。


 受付で聞くと、五階に行けと言われた。

 五階のナースセンターで聞くと、ついてこいと言われた。

 看護師に連れられて、俺は廊下の一番奥にある病室に入る。

 中には、あいつのご両親がいた。俺を見ても驚かなかったのは、母親が連絡しておいてくれたからだろう。


 来てくれてありがとう


 お父さんが寂しそうに言った。

 お母さんが頭を下げた。

 久し振りに見る二人の顔は、驚くほどやつれていた。


 二人に導かれて、俺はカーテンの内側に立った。

 そこに、あいつがいた。

 機械に繋がれ、酸素マスクをしたあいつが、そこにいた。


 交通事故。

 緊急手術。

 意識不明。


 お父さんが説明してくれる。

 俺がそれを茫然と聞く。

 瞬きすら忘れてあいつに見入る俺に、お母さんが言った。


 これを、受け取っていただけないでしょうか


 手渡されたのは、一冊のノート。

 事故現場にあった鞄に入っていたというそれは、あいつの日記だという。

 読んであげてほしいと言われた俺は、病室を出て待合の椅子に腰掛けると、躊躇いながらノートを開いた。

 最初の日付は、俺が都会へと出発した日だ。




 三月十五日


 サトシが行ってしまった。

 結局私は何も言えなかった。

 ちょっと、いや、だいぶ後悔してる。だから、このノートを持ち歩くことにした。

 次に会った時にはちゃんと言えるように。




 日記とも言えない短い文章を読み終えると、俺は顔を上げた。

 意味がよく分からなかった。

 だけど、何故か心臓がギュッと掴まれたように痛んだ。

 顔をしかめながら、俺は一枚ページをめくった。




 四月十九日


 サトシから連絡が来た。ゴールデンウィークはバイトで帰って来られないらしい。

 都会暮らしは大変だ。

 次は夏かな。




 いきなり日付が一ヶ月飛んだ。どうやら毎日書いていた訳ではないらしい。

 日記というより雑記だな。

 そんなことを思いながら、俺は隣のページに目をやった。




 七月二十日


 サトシは明日から夏休み。友達と一週間旅行に行くとか抜かしやがった。

 こっちはずーっと仕事ですよっと。

 暇なら店を手伝いに来いって返しておいた。

 お盆には、帰ってくるのかな。




 このやり取りは覚えている。

 一緒に旅行に行く友達の写真を送ったら、画面いっぱいに怒りのマークが返ってきたやつだ。

 懐かしさに少しだけ頬を緩めて、俺はページをめくった。




 九月三十日


 夏休み中、サトシから一回も連絡がなかった。ちょっと凹む。

 今日、マコたちが店に来て、同窓会をしようって話になった。だから、私が幹事をやることにした。

 時期は年末か年始のどこか。

 場所はうちの店にしよう。売上に貢献するのだ!




 あいつ、面倒見が良かったからなぁ


 そんなことを思った俺は、だが、同時に罪悪感を感じていた。

 店が忙しいのに、あいつは頑張って幹事をしていたのだ。

 みんなに連絡を取って、当日の準備をして、最後は片付けまで。

 うなだれながら、俺は隣のページに視線を移した。




 十二月十七日


 サトシからまだ返事がこない。

 とりあえず、プレゼントだけは買ってきた。

 渡せるといいなぁ。




 顔を上げて俺が唇を噛む。

 この年の同窓会は、たしか十二月二十七日だった。

 その翌日、十二月二十八日は、俺の誕生日だ。

 両手を強く握り締め、それを緩めた俺は、力なくページをめくった。

 そして俺は目を見開いた。




 十二月二十日


 あいつ、同窓会を断りやがった!

 信じられない!

 バカ!




 ポールペンではなく、極太の油性マジックで、しかも見開きいっぱいにデカデカと書いてあった。


 ごめん

 本当にごめん


 呟きながら、俺は強く目を閉じる。

 申し訳なくて情けなくて、自然と涙が出てきた。

 ここまで読めば、さすがに俺でも分かった。


 あいつの気持ち。

 あいつの想い。


 この後も日記は続いた。


 ゴミ箱に捨てたプレゼントを、拾い直して引き出しの奥にしまったこと。

 春休みも俺が帰ってこないことに失望したこと。

 俺に彼女が出来たと聞いて、一晩中泣いたこと。

 二年目の同窓会も欠席の返事がきたこと。

 三年目の同窓会では、新メニューを披露して俺に自慢しようと思っていること。

 俺からのメッセージが途絶えたこと。

 それでも、いつか会える日を信じて頑張ろうと決意したこと。


 止まらない涙を拭いながら、俺はページをめくり続けた。

 その手がふと止まった。右側のページが空白だったからだ。

 ページをめくっても、それ以降は真っ白なままだ。

 あいつが記した最後のページ。

 その日付を見た俺の顔が、大きく歪んだ。




 十二月一日


 やっと町内会の忘年会が決まった。町内会長、遅すぎ!

 すぐ同窓会の日程を決めたかったけど、お父さんは風邪でダウン、お母さんも私もバッタバタで、結局今日は言い出せなかった。

 明日、朝一で相談して決めよう。

 午前中はボランティア。帰ってきたらすぐみんなに連絡しないと。


 今年は帰ってくるかな。

 帰ってくるといいな。

 やっぱり、サトシに会いたいな。




 これを書いた翌日、つまり十二月二日に、あいつは事故に遭った。

 ボランティアからの帰り道、歩道の上で信号待ちをしていたあいつに、よそ見をした車が突っ込んできたという。

 運転していたのは大学生。

 彼女に”遅れる”という連絡するため、スマホを操作していたということだった。


 当然だが、その大学生とは会ったことすらない。

 それなのに、俺は、その大学生と自分を重ねていた。


 ひどい話だ

 本当にひどい……


 ギリギリ音がするほど、俺は強く歯を食いしばった。


 その時。


 目の前を数人の看護師がすごい勢いで駆けていった。

 何事かと顔を上げると、少し遅れて医師も走ってくる。

 その表情を見て、俺の心臓が縮み上がった。


 看護師と医師は同じ病室に飛び込んでいった。

 それは、ついさっきまで俺がいた病室だ。


 動けなかった。

 体が震えて、立とうとしても足に力が入らない。


 病室から逼迫した声が聞こえてきた。


 行かなくちゃ


 わずかに残った理性が俺を叱咤する。

 どうにか立ち上がった俺は、ふらふらと病室に向かった。


 開いた扉から中を覗くと、医師があいつの胸に何かの器具を当てていた。

 次の瞬間、あいつの体が驚くほど跳ね上がる。


 駄目です!

 もう一回!


 医師があいつに器具を当てた。

 あいつの体がビクンと跳ねた。


 あいつが跳ねる度に、俺の体もビクンと跳ねた。

 あまりの恐ろしさに呼吸がうまくできなくなった。


 やがて動きが止まった。

 静かになった病室で、うつむきながら医師が言った。


 ご臨終です


 お父さんが目を閉じた。

 お母さんが両手で顔を覆った。


 現実感のない光景だった。

 それは、とても受け入れられない光景だった。


 俺の足が無意識に動き出す。

 ゆらゆらとベッドに向かっていく。


 ベッドの横に立った俺は、真っ白なあいつの顔を見つめた。

 呼吸も心臓も止まってしまったあいつを、ただただ見つめ続けた。


 俺の中で、どうしようもなくやるせない感情が膨れ上がっていく。

 それは後悔。

 あまりにも大きな後悔。


 同窓会に参加しなかった。

 メッセージに返信しなかった。

 気持ちに気付けなかった。

 自分のことしか考えていなかった。


 そのすべてをあいつに謝りたかった。

 そして、あいつに思い切り叱ってほしかった。


 叶わないことは分かっている。

 それでも、もう一度だけ。

 もう一度だけでいいからあいつと話をさせてほしい。


 その思いが、言葉となって口を衝く。


「遅くなっちまったけど、俺は帰って来たぞ」


 ベッドの手すりを強く握った。


「だから頼むよ」


 閉じたままの瞼を俺が見つめた。

 答えるはずのないあいつに向かって、心の底から俺は叫んだ。


「頼むから、お前も帰って来てくれよ、アカネ!!!」


 空しい絶叫が病室に響いた。

 悔恨の念が視界を歪めた。


 遅すぎたのだ。

 何もかも遅すぎた。


 自分を責めた。

 自分を呪った。

 大粒の涙を零しながら、俺は強く目を閉じた。




 …………と。




 ピッ


 ふいに小さな音がした。


 ピッ、ピッ


 それは、機械が鳴らす電子音。


 どいて!


 突然俺の肩が強く後ろに引かれた。

 不意を食らって、俺が床に尻もちをつく。

 目を見開く俺の前で、医師がベッドに覆い被さった。

 続いて大きな声で指示を出し始める。

 看護師たちが動き出した。

 一人が慌てて廊下に飛び出していった。


 それを見た俺は、その場に這いつくばるように土下座をした。


 神様、お願いします

 何でもします

 何でもしますから、どうか……


 俺は祈り続けた。

 床に額を押し付けながら、俺は一心不乱に祈り続けていた。







 カーテンを揺らした風が、淡紅色の花びらを運んできた。

 それを拾い上げた俺が、途端に大きなくしゃみをする。

 この季節は苦手だ。

 何故なら、俺は大学三年生の時に花粉症になってしまったからだ。


 都会になんて行くからだよ


 ベッドの上から意地悪な声がする。


 関係ないだろ!


 大きく答えて、俺がまたくしゃみをする。


 ベッドの上で、あいつが笑った。

 とても楽しそうに笑った。

 だから俺も笑った。

 心の底から俺も笑った。




 あいつは戻ってきた。

 医師は奇跡だと言っていた。

 周囲も驚く回復力と、あいつ自身の頑張りもあって、来週には退院が決まっている。

 笑っていたあいつが、ふと視線を落とした。


 本当にこっちに戻ってくるの?


 その声には明らかな不安が混じっている。

 その不安は、間違いなくこの四年間の積み重ねが原因だ。

 だから、俺はあいつの目を見てはっきりと答えた。


 小さい会社だけど、こっちで就職も決まった

 来週には実家に戻る

 俺は、絶対ここに帰ってくる


 迷いない答えを聞いて、あいつが笑った。


 そっか


 呟いて、安心したように笑った。

 その笑顔を見ながら、俺は改めて決意する。


 俺は、もう間違えない。

 絶対に間違えたりしない。


 遠回りはしたけれど、あいつの隣がやっぱり落ち着く。

 隣にあいつがいることが、一番しっくりくるんだ。


 薄紅色の花びらを外に投げようと俺がカーテンを開けた。

 途端にまたくしゃみが出た。

 花びらを持ったままティッシュを探す俺を見て、あいつが楽しそうに笑った。




 遅すぎた男 完

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