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ホラー小説 【呪いのこけし】

作者: 虫松
掲載日:2026/02/09


挿絵(By みてみん)



第一章 供養されなかったもの


そのこけしが作られたのは、今から百年以上前だと言われている。


東北の寒村。

凶作が続き、病が蔓延し、子どもが次々と死んだ時代。


ある女は、幼い我が子を亡くした。

名も呼ばれぬまま、土に埋められたその子の髪を、女は切り取った。


「せめて、どこかに残したい」


女は木を削り、こけしを作った。

子の代わりとして。

供養のためとして。


だが、女はそれを寺にも、墓にも納めなかった。


こけしの腹に、子どもの髪を詰め、

毎晩、話しかけた。


「ここにいなさい」

「一人にしないから」


やがて、女は死んだ。

供養されないこけしだけが残った。


それ以降、その家に関わった者は、

必ず何かを失った。


事故、病、発狂、突然死。


こけしは、供養のための器ではなくなった。

それは――

魂を留め、次を探す器になった。


第二章 ネットオークション


主人公・いつきは、深夜、ネットオークションを眺めていた。


特に目的はない。

ただ、退屈を紛らわせるため。


その時、奇妙な出品物が目に留まった。


「呪いのこけし」


商品画像には、古びた木製のこけし。

不自然なほど、口元が歪んで見えた。


説明文には、こう書かれていた。


「このこけしの中には、

亡くなった子供の髪の房が詰まっています。

手に取った者は不幸になると言われています。

ただし噂話であり、呪いが存在する証拠はありません」


出品者は匿名。

評価もほとんどない。


「胡散臭いな……」


そう思いながらも、

樹は入札していた。


理由は単純だった。


面白そうだったから。


競争相手は少なく、

こけしは、あっさりと樹のものになった。


第三章 届いた夜


こけしは、段ボールに雑に入れられて届いた。


手に取った瞬間、

妙に冷たい。


木のはずなのに、

体温を奪われる感覚があった。


顔は、笑っているようで、

どこか嘲っているようでもあった。


友人たちに見せると、笑われた。


「やばそうじゃん」

「呪われたらどうすんだよ」


樹は笑って、棚に飾った。


その夜からだった。


足音。

ささやき声。

何もない部屋で、何かが動く音。


眠れない夜が続いた。


第四章 壊れていく日常


それから、樹の人生は狂い始めた。


仕事では致命的なミスを連発。

上司の信頼を失い、左遷。


恋人には、

「最近、目が怖い」と言われ、別れを告げられた。


原因不明の動悸。

胸の締め付け。

夢の中で、髪の毛に首を絞められる感覚。


樹は叫んだ。


「このこけしのせいだ!」


第五章 割れた器


樹はこけしを掴み、

夜のゴミ捨て場に投げ捨てた。


その瞬間。


バキッ


縦に、真っ二つに割れた。


中から、

黒く湿った髪の房が、生き物のように跳ね出した。


髪の毛は、樹の口、鼻、胸へと入り込む。


喉を裂き、

肺を塞ぎ、

心臓に絡みつく。


声は出なかった。


倒れた樹の体内から、

髪の毛はゆっくりと抜け出し、

割れたこけしの中へと戻っていった。


こけしは、再び元の形に戻っていた。


穏やかな笑みを浮かべて。


第六章 誰も知らない死


樹の死を目撃した者はいなかった。


警察は、

「事件性なし。突然性ショック死(心不全)」

として処理した。


こけしは、

ゴミ捨て場から姿を消していた。


誰が拾ったのか、

誰も知らない。


終章 呪いは渡る


数日後。


ギャル風の女子高生二人が、並んで歩いていた。


「ねえ、呪いのこけしって知ってる?」

「なにそれ?」

「手に取ると不幸になるらしいよ」


一人が笑いながら言った。


「でもさ、こないだゴミ捨て場で見つけてさ。

なんか可愛くない?」


「マジ?

それ、ネットで売れそうじゃん」


二人は笑った。


こけしは、

その腕の中で、静かに揺れていた。


呪いのこけし。

死者の魂を抱えて立つ。


木の心に、哀しみの炎。


「こけし、こけし、供養のこけし」

闇の奥で囁く声。


「こけし、こけし、闇のこけし」

月明かりの下で、踊る影。


呪いは、終わらない。

供養されぬ限り。


次の持ち主を見つけるまで

永遠に。



【呪いのこけし 完】

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