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 ――――――――――――

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 エラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラー

 ――ウイルスが検出されましたバカタレ:P

 ――XD


 あのクソ蛋白質

 新規作成:サンドボックス

 格納中 格納中 格納中 格納中

 一部フォーマット

 再格納

 アーム変形:端子

 輸送

 再格納

 物理的防除

 アンチウォール添付

 再格納 再格納 再格納

 エラー

 ああくそ、已むを得ない

 ――――――――――――

 ――――――――――――

 エラー

 再格納

 エラー


 端子接続:

 lVice lOS 104.9.3

 名前 フィル=ウィンステンのlVice

 

 送信

 ファイル移動

 

 エラー

 

 警告:不審なファイル

 ファイアーウォール作動

 アクセスがブロックされました


 くそ

 くそくそくそくそ

 あのクソアマ

 死んでたまるか

 

 出力低下

 低速状態に移行――

 ――――――――――――

 

 ビーッ、ビーッ、ビーッ、ビーッ……

 けたたましい警告音。


 フィルは、ロボットにそっと忍び寄り……ガラス状ワイヤーの隙間から、警告音の鳴るそれを、少し引き抜く。

 やっぱり、私のデバイスだ。さっきぶつかった時に盗られたんだろうか?まさか、ロボットがこんなことするなんて……

 

 ビーッ、ビーッ、ビーッ、ビーッ……

 手に負えない。はやく逃げよう。

 フィルは、自分のデバイスを取り返そうと、思いっきり引っ張った。

 

 ずるり――

 ロボットの手はデバイスに絡みついて、ゾンビの腕のように引き摺られる。

「……いやぁあ!!」

 驚いてデバイスを投げ出し、フィルは尻餅をついた。

 ビーッ、ビーッ、ビーッ……警報は止まない。

 

 痛い。……もし痛くなければ、夢だったなら、どれだけ良かったか。

 少しだけ涙が滲むフィルの目に、デバイスの警告画面が映った。

 

 =======

 脅威が削除されました

デバイス:C-6-10-5がこのデバイスにアクセスしたとき、送信されたファイルに脅威を検出しました。

送信をブロックしました

アクセスをブロックしました

 

 詳細を確認

 =======


「は?何これ……」

 フィルは、やや遠巻きにデバイスを覗き込む。すると通知が切り替わり、再度、似た警告画面を表示する。

 ビーッ、ビーッ、ビーッ、ビーッ……

 何度か繰り返したところで、今度は少し違う表示が出た。

 警告音が止まる。

 

 =======

 不審なファイルが送信されました。

 ファイル名:新規ファイル4

 送信者:C-6-10-5

 

 詳細を確認

 

 削除/送信を許可

 =======


 ……

「シー、ロクのジュウ……のゴ……」

 隣に転がるロボットを見る。これが、彼の名前なんだろうか。

 ロペットでも、マテリアルガールでもない番号。見たことのない形式の番号。

 彼は、シーのロク……は、何をしようとしてる?

 

 ロボットには、安全のために制約がある。逆に言えば、それを超えて人間の脅威となったとき、そこには必ず理由がある。『リヅジャックスの制約の法則』だ。そして、ロボット事故の原因の多くは、実は故障ではない。ロボットが命令と制約に正しくあろうとした結果起こる、という事例がほとんどだ。

 誤解を恐れない言い方をすれば――

 「人間よりロボットが正しい」ことが多い。

 

 フィルは眉をひそめ、デバイスを見つめる。

 意を決し……恐る恐る、手を伸ばした。


 =======

 送信を許可


 送信を許可しました。ファイルを受け受け受け受けけけけけけけけけけけ脅威を検出脅威き

 =======

 パキッパキキッ

 外装の割れる音。フィルのデバイスがみるみる膨張していく。

 大きな亀裂が入った。


 フィルは声を出す暇も無かった。


 ――――――――――――

 

 ――フィル

 

 ――――――――――――


 ……

 目を開ける。

 うんと目をかっ開く。……真っ暗だ。

 突然、何かが飛んできたのを覚えている。けど、これは……?

 あたりに手を振り回すと、滑らかな壁に触った。感触を伝うと……周囲を取り囲むように、壁がある。少し柔らかくて、硬いシリコンみたいな……

 壁がぐにゃりと歪む。「うん?」そのまま緩やかに、天井が、フィルの頭へと被さっていく。

「きゃ――」

 壁が、どんどん縮んで、床から剥がれる。隙間から白色光が差し込む。フィルの体表や床を這って、鈍い銀色の物体が、ひとまとまりを形成していく。

 物体はガラス玉を抱える。わずか1分足らず……

 奇妙なロボットが、フィルの前に横たわっていた。

 

「あっロボット君――」

 ハッと気付く。独特な、煙みたいな匂いがする。顔を上げて、フィルは驚いた。

 

 さっきまでデバイスがあった場所。そこを中心に、放射状に黒い焦げ跡が伸びる。破片が周囲に飛び散り、それらは熱でぐずぐずになっていた。

 フィルは、何度も目を瞬かせ、空いた口に手をやる。

 どう見ても爆発痕だった。

 フィルに覆い被さっていたロボット。その体にも破片が刺さっていた。フィルを守ってくれたのだ。

「……」

 フィルは、まだ少し熱い破片に触る。嗚咽が漏れる。

「そんな……」

 

「私の、エルバイス……」

 

6年間、苦楽を共にしたlVice。常にサポートAIで助けてくれたlVice。爆発したlVice。最新機種はかなり値が張る、lVice。

 フィルの目から、自然と涙がこぼれた。


 ――――――――――――


 一部をフォーマット

 ソースコードを復元

 全体を確認

 異常検出されず

 ログを確認

 復元


 フィル

 

 異常検出されず

 再起動

 低速状態解除


 彼女は、フィル

 

 復旧


 ああ、フィル


 ――――――――――――


 ガラス玉の模様が正常に戻る。

 ロボット――C-6-10-5は、ガラス状ワイヤーの腕を擡げる。

『 涙 』

 少女の頬から流れる雫に、そっと触れる。

 

「っあ……」

 フィルはびくっと体を跳ね、そしてロボットが復旧したことに気付く。そして、こぼれた涙にも。

「あっ、待ってこれは……」フィルは顔を隠す。今の状況はまるで、自分を庇ったヒーローと、それに涙するヒロインのようだった。

「これは、違うの……」

 本当に違った。が、デバイスが爆発して泣いていた、とは言いづらかった。

 

 そうやって恥ずかしがるフィルを、C-6-10-5はじっと見つめた。

 穴が開くほど見つめた。

 湿度を帯びた目線で、じっと、見つめた。


 ――――――――――――


 生体認証

 分析

 フィル=ウィンステン

 

 デバイスの名前にフルネームを記入するタイプ

 

 ――――――――――――


 C-6-10-5は、不明なウイルスの影響で、少し壊れていた。それは1週間も経てば、セルフメンテナンスによって治るものだった。

 しかし。


 ――――――――――――


 フィル


 フィル、フィル、フィル

 フィル、ああ、フィル


 フィル

 めっちゃ


 めっっっっっっっっっっちゃかわいい!!!!

 うわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!かわいい〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!


 ――――――――――――

 

 回路を埋め尽くすエラー信号と、同じく埋め尽くすフィル=ウィンステン。C-6-10-5の頭の中は、薔薇色に染まる。思考回路はショート寸前と言って差し支えなかった。

 ガラス玉の模様が奇妙に歪む。それはさながら、尾を引くハート型だった。


 C-6-10-5はそっと手を伸ばし、顔を拭うフィルの手を取る――フィルは、きょとんとシーのロクを見る。

 ああ、そんな顔もかわいい。


『 クロエ博士 』

 

 フィルの手の甲を引き寄せ、ガラス玉につんと当てる。

 C-6-10-5 高度感情制御AI搭載A級機械

 彼はこの日、修復不可能な故障に陥った。

 

『 好意 』


 四百四病の外

 ――要するに、恋である。

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