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猛猛特訓

 俺は物心ついた時から爺ちゃんと二人でこの家に住んでいた。


『ワシはお前の実の祖父ではない、弟子じゃ』


 と言われたことを今でも覚えている。


 だから俺が爺ちゃんと呼ぶのは、ただの俺の好き勝手だ。


「イチゴよ、お前はまだ当分師匠にはなれないからな」


「えっ、それってどういうことだ爺ちゃん」


「そのまんまの意味じゃ阿呆。弟子をとるなんざ好きにすればいいが、お前はまだ師匠と名乗るには未熟者すぎる。力をつけ、肩書きではない本当の一人前になったらここを出ていけ。そうしたら師匠と名乗ることを許してやる」


「ここを………出ていく………」


 そうか、俺は爺ちゃんに認められなければいけないんだ。


「分かった!爺ちゃんを倒してここを出ていくよ!!」


「潔さがすぎるぞイチゴ!?ワシはなにもお前に倒されたいわけではないからな。一人前になれと言うておるのじゃ」


「んぁ?まあ同じようなことだろ。爺ちゃんを越えればいいんだから」


「………はぁ、別にそれでもいいがのぉ。爺ちゃんは弟子に愛されたいものなのじゃ」


「なあお前さ、名前なんて言うんだ?」


 なぜか悲しそうにしている爺ちゃんを置いといて、俺はいまだキョトンとしている子どもに向き直った。


「……カミア、です」


「俺はイチゴだ。じゃあカミア、今から俺のことは爺ちゃんと呼んでくれ」


「えっと………」


 爺ちゃんの方へと目を向けて様子を伺うカミア。


「………カミアと言ったか、普通にイチゴと呼んでやってくれ」


「……はい」





 食事を済ませてから、俺たちは家の外へと出た。


 空はまだ明るい。


 というよりはこの森に張られている強力な結界のせいで一日を通してずっと明るいままなのだ。


 人里の村に行ったときにはじめて普通の空を見て感激した覚えがある。


「さて、お前さんら二人は今日から猛特訓をするからな。今のうちに身を引き締めておけ」


「けどよ爺ちゃん、いつもいつも猛特訓って言ってたけど、今までとは何が違うんだ?」


「そりゃ比べものにはならん猛猛特訓じゃ。カミアよ、今歳はいくつじゃ?」


「あっ、はい。今12で、今年で13になります」


「ほぉ、イチゴと同い年じゃな」


 子どもじゃなかったのか。


 外見だけではいろいろと判断しずらい事の方が多いのかも知れない。


「そうか、ならば今日から二年でお前さんらを立派に鍛えてやるとしよう」


「すみません。その、私なんかがついていけるでしょうか……?両親との関係が悪かったのは、私が何もできない無能だったのが原因で……」


 顔を俯かせながら申し訳なさそうにそう言ったカミア。


「それなら尚更ワシの教えがいがあるというものじゃ。特大サービスをくれてやるから、死ぬ気でついてくるといい」


「はっ……はい!私、頑張ります!」



 ──────


 世界のあらゆる場所に点在するマナは、息をするように俺たちの体内に入り込み、生きる上で必要不可欠な存在となっている。


 マナを取り込むことで生物は不思議な力を宿し、己のものとすることができる。


 爺ちゃんはマナを体外に纏わせることであり得ない身体能力を発揮できている。


 しかしそれにはコントロールが必然であり、そこに差が生まれるというのは身をもって体感している。


 鬼ごっこで爺ちゃんを捕まえられたことが一度もないのはそのせいだ。


 マナは応用次第でいくらでも化ける、可能性は遥か無限にある。ということを爺ちゃんはよく言っていた。


「もちろん基礎体力がなければそんなのは話にならんがな」


「あの、ちょっといいですか、お爺ちゃん」


「おっ、おじぃ………!?」


「プフッ」


 カミアが突然お爺ちゃんと呼び出したことで思わず笑ってしまった。


 爺ちゃんも呆気に取られたような顔をしている。


「マナは魔法を使うためにある、と私は教わってきたのですが……」


「ふむ、一般的にはそっちの方が常識じゃな。だがどうだ、魔法なんて少し複雑な形状のマナを吹っ飛ばしているだけではないか?」


「え………?」


 この話は前に爺ちゃんから散々聞かされた。


 つまるところ、爺ちゃんは魔法が大嫌いなのだ。


 爺ちゃんは一切魔法を俺に教えてくれないから、俺は全く魔法を使うことができない。


「ただマナを飛ばすことなら、ワシにもできる。ほれ」


 そう言って、遠くに聳え立つ木々に手を向けたその時。


 形を成したマナの塊が高速で飛んでいった。


 直後に、バゴォォン!という爆発音とともに跡形もなく木々が消滅していた。


「ほれ、これが魔法じゃ。こんなものの何が楽しいのか。さっさと特訓を始めるぞ二人とも」


 かくして始まった、二年にも及ぶ猛猛特訓の日々。


 魔法を一切使えない無能と言われてきたカミアは、驚くほどの吸収力でマナのコントロールを極めていった。


 かくいう俺も、弟子に負けてはいられない。


 数度のカミアとの模擬戦では、意地の全勝を遂げ、爺ちゃんとの三度の模擬戦では計25秒で全敗した。


「なあカミア」


「ん、なんですかイチゴ」


「なんでお前は股間に何もないんだ?」


「へぁ!?な、突然何を言い出すんですかっ!」


「おっと………まだ一つ、イチゴに教え損ねていることがあったな」

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