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弟子、弟子をとる

 ある日突然、子どもを発見した。


 森の奥深く、俺以外の人間を見たのはこれが初めてのことだった。


「っつーか……こいつ何で裸なんだ?」


 子ども……何歳くらいかは判別が難しいが、俺よりも小さいから勝手に子どもと認識した。


 自分の歳が分からないと他人を見た目で判断することすらできない。


「んぁ、股間に何もない………だと!?」


 前言撤回、こいつ本当に人間なのだろうか。


 俺と同じ人肌の色をしているし、姿形はまんま人間と同じだと思っていたが肝心のものがないとなると他全てを打ち消すほどに疑わしい。


「…………(ちょんちょん)」


「んっ」


 そこらへんに落ちていた木の棒でソコを突いてやると、小さい声をあげた。


 しかしまだ意識は戻らなさそうだ。


「んーー………どーっすかな、これ……」


 人間と姿形がそっくりな生き物は他にたくさんいるし、仮にこれが人間でないとしたら迂闊に近づくのは危険が高い。


 子の近くには必ず親がいるからだ。


 下手に手を出して親個体に見つかれば、戦わざるを得なくなってしまう。


 爺ちゃんにはまだ他の生き物と戦うことは許されていないし、俺だってどう戦えばいいか分からない。


「………ん〜〜〜〜いや、でもなぁ…………」


 最初にこいつを発見した時から、俺の中で一つの希望みたいなものが生まれた。


 それは、《《弟子を持つ》》という願いが叶うかもしれない希望だ。


 弟子を持つということは、一人前になったという証拠でもある。と爺ちゃんが言っていた。


 その言葉を聞いて以来、俺はずっと前から弟子が欲しかった。


 なんかよく分からないけど、年下っぽくて俺よりも弱そうだから俺の弟子としてちょうど良い。


 ただまぁ……一番大事なモノが股間から消えているのは気になるが、たとえ人間でないとしても関係はない。


 俺の弟子に生き物の種族なんかどーでもいい。


 弟子は弟子なのだ。


「さっきから気配を探ってみてるけど、やっぱり親はどこにもいないみたいだな」


 寝転がっている子どもを抱き上げて、俺は家に戻ることにした。


 これから爺ちゃんにとんでもない報告ができることを楽しみにしながら向かった。


「爺ちゃん爺ちゃん!見てくれ、子ども拾った!」


 扉を勢いよく開けて第一声そう叫んだが、爺ちゃんはいなかった。


「あれ、もしかして上かな」


 一旦子どもを床に置いてから、俺は家を出た。


 家の元となっているデッケェ木を駆け上がるようにどんどん上へ登っていく。


 さっと500メートル登った木の頂上に出ると、やっぱりそこに爺ちゃんがいた。


「──なんじゃ、ワシの修行の邪魔をするでない」


 頂上で足を組んで手を合わせ、目を瞑っている爺ちゃんがいた。


「そんなの今までやったことないだろ……?なあなあ聞いてくれよ爺ちゃん、俺もしかしたら弟子を見つけちゃったかもしれない!」


「ぐっ……折角我が弟子にいいところを見せる時だったというのに………。イチゴや、お前なぜ人間のガキを連れて来よった」


「えっ、あれやっぱ人間なのか!?……っていうかずっと見てたのかよ」


「……おっほん。やれ、ちょいと見てみるか。戻るぞイチゴ」


「あ、ちょっ待てよ爺ちゃん!」




 家に戻ると、床に置かれたままの状態でいまだ目を覚さないでいた。


「……なんで裸なんじゃ、このガキは。イチゴ、お前まさか……」


「いや、ちげーよ!見つけた時からずっと何も着てなかったんだよ!」


「そうか、まあイチゴは知らんじゃろうな……、いいかイチゴよ。このガキは紛れもない人間である」


「いやでもよ爺ちゃん……股間のとこ見てくれよ。そいつ、持ってないんだぞ……?」


 それがなくて俺と同じ人間だなんて言われたって信じられない。


 爺ちゃんにもついていて、俺にあってそいつには無いのに同じ人間だなんてあり得るのか。


「イチゴ…………持っていなくても人間の場合があるんじゃ。というか晒して良いものではない。イチゴ、お前の服を着させてやれ」


「お、おう……」


 ちょうど小さい頃に着ていた服を着せたらぴったりだった。


 ひとまず子どもを布団に寝かせてから、俺と爺ちゃんは晩飯を食べることにした。


「あれ、一人分多くないか?」


「バカもん、あのガキの分じゃ。あれだけ痩せ細っていれば、さぞ空腹じゃろうて」


「そっか」


 テーブルに三人分の晩飯を用意して、布団で眠っている子どもを横目に手を合わせて食べ始めた。


「それで?イチゴよ、お前あの子を自分の弟子にするつもりだと言うのか?」


「そうだよ爺ちゃん。俺さ、ずっと前から弟子が欲しかったんだよ!」


「弟子であることでは飽き足らず自ら弟子を取ろうと言うのか……?」


「爺ちゃん前に言ってだろ?弟子を持ったら一人前の証だって。だから俺、弟子が欲しいんだよ」


 俺の言った言葉に、爺ちゃんは食べ進める手を止めて呆気に取られたような表情をしている。


「ははっ………全く、ワシの弟子は大した馬鹿者じゃ。そんな不純な理由で弟子を取ろうとする者なんざ、世界中どこを探しても二人しかおらん」


「二人って……その中に俺も含まれてるのか?」


 爺ちゃんはニヤけた顔で言い返した。


「お前と、ワシじゃ」


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