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真の被害者

作者: 古田ボーイ

本当の正義など存在しない。

最近よく耳にする言葉だが、それでは本当の悪は存在するのだろうか。

それは分からない。存在するとすればその悪もまたひとつの被害者だということだ。

なぜならば悪人と世間から呼ばれている者の大抵は刑務所で服役し世間から色眼鏡で見られているからだ。ミステリー小説なんかではよく犯人逮捕で物語が終結するが犯人から

すれば物語はそこからはじまる。

これはそのひとりの悪人とよばれた人間の物語だ。


アツヤは留置所で一回、拘置所でも一回、自殺未遂をした。どちらも命に別状はなかった。それでも刑務所に入ると工場で衛生係を任されるようになった。

衛生係は日中は他の一般受刑者の世話をし、夜はTV付きの独房で過ごすことになる。

一カ月の報奨金は約一万円。娑婆なら日給だ。被害者遺族に手紙を書こうと思ったがただそれは自己満足以外の何物でもないので結局書かなかった。

無期懲役のアツヤは何の見返りもない日々のなかでひたすら自分の受刑生活を淡々とこなしていた。

そんなアツヤにも数ヶ月すると後輩の衛生係が配役されてきた。そいつはユウキというピンク犯だ。ピンク犯とは性犯罪者のことで刑務所ではイジメのターゲットにされやすい。

仕事もできなかったこともあり刑務官からよく叱られていた。他の一般受刑者からも「よくあれで衛生係を任されたもんだ亅と馬鹿にされていた。そんなユウキをみかねたアツヤは自由に会話できる運動時間中に話しかけた。

「あのな、お前はおれと違ってまだ刑期が縮まる可能性があるんだからもう少し仕事ができるようになる工夫をしろ。仕事の時はとにかく仕事のことに集中するんだ。お前にも待ってる家族がいるんだろ?」

「アツヤ先輩の事、尊敬してるし僕にも待ってる家族がいます。でももう限界です。一般受刑者の前でいつも叱られて。月に一万の稼ぎであんな仕事量求められて、僕はもう疲れました。」

アツヤは少しムッときた。

「俺はどんなにがんばっても刑期が縮まることもないし他の一般受刑者は月に千円も貰ってない。言い訳をすればいくつでもみつかる。ここでやる気がないならさっさと落ちろ。そうすればいまみたいな仕事量も求められないぞ。」

刑務所でいう落ちる、とはわざとルールを破って懲罰を受け別の工場に配役されることを意味する。

後日、結局ユウキは落ちた。

アツヤはその夜ひとり呟いた。

「ある意味では被害者だよ、アイツも俺たちも」


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