第五話「困った時はお互い様」
「『変身ヒーローと魔法少女』ですか?」
ヒーローズの事務所でのこと。優斗と村上は小川社長にPCの画面を見せられた。
画面に映っているのは、レッドやブルー、フラワーガールたちの写真や動画が上がっているSNSだった。
優斗が言ったのはそれらに付いているハッシュタグだ。
「君たちや魔法少女のことは以前から話題になっていたけど、最近は特に増えてきたみたい」
「こういうのってまずいんでしょうか」
「あまり世間から注目されると活動はしづらくなるわね」
優斗の疑問に小川社長が答えた。
「でも今の時代、秘密裏に活動するのも難しいし、あなたたちは自分の活動に専念してくれればいいわ」
「わかりました」
「最近、『変身ヒーローと魔法少女』っていうのが話題になってるみたいだね」
学校の教室で優斗と亮が話しているとそんな話題になった。
「ここでもか……」
思わずつぶやく優斗。
「ここでもって?」
「いや、バイト先でもそんな話題になってさ」
「この辺、目撃報告が多いもんね」
そこへれんげがやって来た。
「また魔法少女の話?」
「うん。変身ヒーローと魔法少女ね。SNSで話題になってる」
「変身ヒーローと魔法少女って別物じゃないの?」
「別々に目撃されることが多いけど、この前一緒にいるところを撮った人がいるから、まとめてハッシュタグになってるみたい」
「ふーん、そうなんだ」
「ほら。ヒーローは赤いのと青いの。魔法少女はオレンジとピンク」
そう言って亮はスマホの画面を優斗とれんげに見せた。
「魔法少女ってオレンジのフラワーガールだけじゃなかったのか」
「そうだよ。ピンクの方はインテンションっていうらしい。フラワーガールより前から目撃情報が上がっている」
優斗の言葉に亮が応える。
「優斗が会ったことがある子はオレンジ色の服を着ていたって言ってたよね。ということはフラワーガールかな」
「ああ。本人がそう言ってた」
「そのフラワーガールっていうのは、評判はどんな感じなの?」
れんげが尋ねた。
「危ないところを助けてもらって感謝しているとか、おおむね評判はいいみたいだよ」
「ああ、俺も助けられたしな」
「ふーん、そうなんだ」
嬉しそうに微笑むれんげ。
「変身ヒーローの方の評判は?」
今度は優斗が尋ねた。
「こっちも評判はいいかな。赤いのが最近加わって、頼もしくなったって言われてる」
「そうかそうか」
顔をほころばせる優斗。
そんなこんなで休み時間は終わった。
優斗が帰宅途中のことだった。
インテリジェントストーンが話しかけてきた。
『優斗、北の方に何か反応がある』
「何か? ルードじゃないのか?」
『ルードではない。だが、現代文明の産物でもない』
「そうか……とりあえず行ってみるか」
優斗はインストが示す方向へ向かった。
バトルスーツを装着してレッドになった優斗がたどり着いたのは県立体育館だった。
「何だこりゃあ……」
体育館の屋根から巨大な樹が生えていた。さらに、太い根が体育館の壁に張り付いている。以前来た時は無かった物だ。
体育館の前にはオレンジ色の服を着た人物がいた。
「あっ、フラワーガール」
「レッド」
フラワーガールはレッドに声をかけられて振り向いた。
「これは一体何事なんだ?」
「植物系のマジックアイテムだよ」
フラワーガールは巨樹の中ほどを指差した。
「あの辺りに核があって樹を成長させてるんだけど、ガードが固くてなかなか手が出せないの」
「なるほど……よし、俺が試しに攻撃してみる」
「いいの?」
「この前助けてくれただろ。困った時はお互い様だよ」
「ありがとう」
レッドは体育館の壁を這う根を駆け上がった。
が、枝が伸びて鞭のようにレッドに襲いかかる。
「何!?」
それをかいくぐったり弾いたりしながら、体育館の屋根まで上った。
「ショットアタック!」
核のある辺りに光弾を放つ。
しかし、浅い傷しかつかない。
「それなら……スパイラルアタック!」
螺旋状の光が巨樹の幹に放たれた。
激しい光と音とともに、幹が大きくえぐれる。
幹の内部から緑の箱が露出した。
「出たぞ! これが核か、フラワーガール!?」
「うん! ありがとう、レッド!」
いつの間にか体育館の屋根の上まで来ていたフラワーガールは、ステッキを振りかざした。
「キャッチ!」
緑の箱は彼女が持っている瓶に吸い込まれていった。
すると、体育館に覆いかぶさっていた巨樹は光の粒子となって消滅した。
「これでよし……と」
フラワーガールはレッドに向き直る。
「今回は本当に助かったよ。ありがとう」
「いや、役に立てたなら良かった」
そこへフラワーガールの傍らに小動物が飛び出した。
「お前、なかなかやるラ!」
妖精のファイブルだ。
「どうせなら、これからもボクたちに協力するラ!」
「こら、ファイブル! そんなこと言ったら図々しいでしょ!」
「いや、俺のできる範囲なら協力するよ」
「いいの?」
「まあ、本業はルード退治だから、それに支障のない範囲でだけど」
「それはありがたいわね」
新たな声が割って入った。
レッドが振り向くと、ピンク色の髪と衣装の少女が立っていた。年の頃はフラワーガールより二、三歳下ぐらいだろうか。
「うわ! 誰?」
「あっ、先輩!」
レッドとフラワーガールの反応にピンク色の少女は鷹揚にうなずく。
「私はインテンション。フラワーガールの先輩魔法少女よ。はじめまして、変身ヒーローさん。フラワーガールがお世話になったみたいね」
「君がインテンション……噂には聞いたことがあるよ。俺はレッド。よろしく」
「遅くなってごめんね、フラワーガール」
「ううん、大丈夫。彼が助けてくれたから」
「改めて私からもお礼を言うわ。ありがとう、レッド」
「いや、俺もフラワーガールには助けられたから」
そこへ改めてフラワーガールが尋ねた。
「それでさっきの話だけど……これからもわたしたちに協力してくれるって話。本当にいいの?」
「ああ、いいよ。上の方に聞いてみないとだけど……もしダメだって言われても、説得する」
「ありがとう。じゃあ、わたしもできるだけそっちに協力するようにするね」
「いいのか?」
「あなたも言ったじゃない。困った時はお互い様、でしょ」
「そうか。ありがとう」
「いいよね、先輩?」
「構わないわよ」
「……というわけで魔法少女に協力することになったんですけど、良かったですか?」
「いいわよ」
ヒーローズの事務所で優斗が報告すると、小川社長はあっさり答えた。
「いいんですか」
「その辺はフレキシブルなのよ、うち。ルード退治がおろそかにならなければいいわ」
「わかりました。頑張ります」
こうしてヒーローと魔法少女の連携体制が確立された。