第5話 童心に返って探偵ごっこをした。
そしてその夜。
私、鳴川望は、ついに室長のお部屋にお邪魔することと相成りました。
「お、お邪魔しまーす」
「はい、スリッパどうぞ」
室長が屈んで私の足元にスリッパを置く。
あの室長が頭を垂れている!と感動を覚えた私って、性悪なのだろうか。
「わー素敵なお部屋ですね」
さすが室長と言わんばかりの、それはそれは広いお部屋だ。
私なんかが足を踏み入れていい空間とは思えない。
「がーがー」
……いや、先客がいた。
ペンギンさんだ。
「ほら、この通りだ」
「こ、これは……」
ペンギンは、その黄色い足でぺたぺたと床を歩いている。
なんて可愛らしい。
(ああ…ほんとにほんとに、ペンギンが居た…)
てことは私の家の白イルカもかなり現実。
「真実はいつもひとつ…」
私はリビングで立ち尽くしたまま、某少年探偵の名言を呟く。
「は?」
御手洗室長は眉間にしわを寄せて、めちゃくちゃ睨んでくる。
「すいません、本当にペンギンが居たので。
取り乱してしまいました」
私は咳払いで緊張をごまかす。
「妙なことがあります。それは、匂いです。
ペンギンも私の家の白イルカも、
あの動物特有の匂いがしないのです」
「確かに……」
私は推理を続ける。
「つまり、彼らはリアルな存在ではなく、
架空のこう、3D映像のような…」
「それは違うな。こうして触れる」
そう言って室長は、ペンギンにぎゅっと抱きついた。
嬉しそうに眼を細めている室長は、
「ペンギンの白いふっくらお腹かわゆす~」
と言わんばかりだ。
「……室長、もうこれで幸せなら、
彼らの正体を突き止める必要はないのでは」
「いや、科学的な現代を生きる人類としてそれはどうなんだろう」
「だからこそですよ。
癒しを求める私たちの望みが、このしたイリュージョンを作りだしたのでは?」
「……なる、ほど?」
私たちはひとまずの結論にたどり着いてしまった。
「いやお前、推理放りだすなよ!」
「なんですか。冷めた目でみていたのに!」
私たちはお互いに怒鳴り合って、
なんだかあほらしくなってきた。
「飯、食うか…」
室長はキッチンへ向かった。
「え」
「ほんとにこれがイリュージョンなら、しばらくすれば消えるだろ
騒ぐのもあほらしい」
冷めた表情で淡々とそう言いながら、
室長はエプロンを掛けて、腕まくりをしている。
「し、室長が、作ってくださるんですかあ!?」
誰かに作ってもらうごはんなんて久しぶりで、
私は歓喜の声を上げる。
「なんだよ。もう時間遅いし、ただ帰れとも言いずらい」
「室長……」
(なんかこれって、いわゆるセクハラっぽい……)
と、テレビで見たセクハラ事例集を思い出した私は、
やはり性悪なのだろうか。
だけど当事者の私が不快じゃないから、違うと言い張ろう。
だって、室長が料理をつくる姿なんてレアすぎし。
ふつうに嬉しい。
「ニラ玉でいいか?」
「ニラ」と印字されたダンボール箱から、
ニラを取り出す室長。
(なぜ……ニラ?)
と、首を傾げながらも、私は笑顔でうなずく。
「ニラ大好きです!!」
「そうか」
満足げにニラを刻みはじめた室長。
「ガーガー」
そして、ニラに寄せられて近寄ってきたペンギン。
私はペンギンをなでなでしながら、
この状況に笑いが込み上げてきた。
「ぷっ…」
「……なに笑ってんだ?」
「だっておもしろくて。
こんなおかしなことが起きるんだなあって」
私がそう言ってまた笑うと、室長も笑ってくれた。
遠慮がちにだけど。
「食ったら帰れよ、鳴川」
と、言い放つのは忘れずに。
いや、当然帰りますが?ってむかついたけど。
室長がつくってくれたニラ玉はとってもおいしかった。