曲がりくねった道の町
またわからなくなった。
ハンドルを握る人差し指がイライラと動く。
東に進んでいるつもりだったのが、いつの間にか西に向かっていた。
この町の道路を作ったやつは頭がおかしい。まっすぐの方向へ進むのに何度も角を曲がらないといけない。なぜまっすぐ道を作らないんだ。
彼女をもう20分も待たせてしまっている。この寒い時期に。どこか暖かい室内を見つけて待っていてくれと願う。
高いビルを目印にして、それをずっと左手に見ながら車を走らせていたのに、いつの間にかビルが右に移動している。一体いつ移動した? この町の建物はワープするとでもいうのか。
彼女は怒っているだろうか。またひとつ彼女の信用を俺は失うのだろうか。俺のせいじゃないのに。
ナビの鳴らしている音楽が煩く感じる。俺はそれを止めた。ここが初めての町ならもちろん、このナビに道案内をさせるところだ。5年も住んでいる町でナビは使わない。だってまるで俺が道を覚えられないマヌケみたいじゃないか。
彼女は怒っているだろう。寒空の下、吹きっさらしの市役所前で、コートのポケットに手を突っ込んで立っているだろう。俺が着いたら、最も軽蔑する人種を見るような顔で見て来るだろうか、最近よく見せるようになった、あの表情で。そろそろ別れ話を切り出されるかもしれない。
俺のせいじゃないのに。
この町の道路を作ったやつのせいなのに。
彼女がよく俺にする説教を思い出す。『なんでも他人のせいにするのやめなさいよ』『現実は変わらないんだから』『何とか出来るのは自分のことだけなんだから』『ちょっとは成長してよ』
うるさい。俺に説教するな。
腹が立つ……。腹が立つ……!
なかなか市役所は見えて来ない。どっちにあるのかもまたわからなくなった。イライラする。誰か轢いてやろうか。轢き殺してやりたい。
目の前に、横断歩道のないところの車道を老婆が悠然と渡っているのが見えた。