(1日目)出社
目が覚めると同時に飛び起きた。
『昨日の出来事が夢ではなかったのか』
そんな感覚に襲われ、財布の中の当選くじを探す。
______確かにある。
一応、当選番号も確認した。
昨日は何気なく財布にしまったが、こんな財布の中に入れておいたらダメだろ。
万が一、空き巣にでも入られたらどうする。
部屋の中を見回し、冷蔵庫の中、電子レンジの下、洗濯機の下、どこが良いだろう・・・。
ふと、普段使っているデスクトップPCに目がいく。
『ここだ!』本体のねじを開け、隙間に置いてみる。
一見、すごく盲点ではあるが、万が一PCごと盗まれたらと考え、やめる。
結局風呂場の天井にある蓋を開け、天井裏に隠しておくことにした。
起きてから既に1時間が経過し、出社のため家を出る。
世界が180°変わった。
いつも眠気の中歩いた駅までの道がまるで初めて通るかのように感じた。
眠気は一切なく、とにかく胸が詰まる感じ。
胸は詰まっていたが、腹が減った。
普段は駅前のローソンで、コーヒーとサンドイッチを買うのが決まりだったが、この日はオレンジジュースとねぎとろ巻き、そしてLチキを買った。
出社後も、ハイなテンションを隠すのに精いっぱいだった。
今までストレスだった嫌な上司からの皮肉、クレーマー気質な客からの文句、どれも愛おしく感じた。
自分が宝くじに当たったのも、この世界の仕組みがあるお陰だし、それらを構成する一部である人間たちを憎めるはずもない。
1日中、何を言われても自然な笑顔で過ごすことができた。
唯一、タケシとすれ違った時は、どこか後ろめたく、言うなれば、夢の世界(現在)と昨日までの現実世界(過去)の唯一の懸け橋であるかのようだった。
タケシの前でだけは変なテンションが悟られぬよう平静を装った。