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第19話 希望の光


「それで、王国の王女になった経緯は?」


 細かいところまで聞くつもりは無かったが、望まずして王になった彼女が、どうしてまた王となったのかが気になった。すると言いづらそうなステラの代わりと言わんばかりに、トネール先生が口を開いた。


「シーク・マードレ。ステラ様が言ったように、君と違って力を持たずに生まれた。もちろん、途中で精霊の力を宿してはいるのだが」


 生まれたということは、幼い少年の姿になったオレと違い、彼女はゼロからのスタートだったのか。そうだとすれば、とんでもない時間を費やしている。


「な、なるほど」

「……彼女は、君主であった父君を早くに亡くされた。幼過ぎたとはいえ、ステラ様を王女とすることは必然だったのだ。王がいなくては国は成り立たない。たとえ弱い力であってもだ。だが――」

「自分が弱いままで長く過ごしていくのは許さなかった。アタシは強くありたかったからな! シークに近づけるように」


 彼女のことを思い出したからこそだが、やはり誰よりも強い心を持った女性なのは、あの頃から変わっていない。オレに星の力を与えに来るまで、かなり努力をして来たのだろう。


「そうか、そうだったのか。オレとの約束の為に……代償とはいえ、思い出すことが出来なくてすまない」

「お前らしくないことを言うものだな。シークはあの頃よりも強くなったのだろう? だったら、アタシに謝らずにやることがあるはずだ! それも教えないと分からないのか?」

「――! いや、今度こそ君を守る。王女となったならなおさらだ」


 フェアシュ王国の王女とは驚いた。これも星の導きということになるのだろうが、星といえばステラは確か精霊の力しか使えないと言っていた。星の力をオレに与えたというのならば、彼女からも星が見えてもおかしくない。一応確認だけしておくか。


 決意表明をしたところで、オレはステラの胸元をさり気なく見つめた。ところが、白も無ければ黒の五芒星すらも浮かんでいない。


 トネール先生には白く光る五芒星や小さい星があるというのに、どうしてステラには星が無いのか。


「――おい」

「ううーん? おかしいな、無いぞ。全く無い……」


 角度を変えて下から覗き込んだり横から眺めたとしても、彼女の胸元からは全く星が見えて来ない。そうなると星の力は全てオレにあり、彼女には全く残っていないということになる。どういうことなのか分からないが、本人に聞いておくべきか。


「何が……無いって?」

「ステラの胸元をどんなに眺めても無いんだよ。何でだろうな? なぁ、ステ――」


 彼女に聞こうと思った時には、既にオレはステラに投げ飛ばされていた。一瞬何が起きたのか分からないままにだ。


「シークくん。いくら何でも、女の子にそれはどうなのですか? 先生はそんな風に教えたことは無いのだが」


 硬い床の上に倒れたオレに対し、トネール先生が顔を覗き込んでいた。その口調は柔らかいものだったが、オレを見るその目からは憐れみを感じさせるものだった。


「う、うぐぐぐ……な、何がどうなって」

「シーク! お前には失望した。見損なったぞ!! そんな奴に成り下がってしまったとはな!」

「な、何のことだ? ステラ」


 トネール先生だけでなく、ステラからも落胆した表情をされてしまった。


「アタシの胸を凝視した上……無いなどと、親しき仲にも礼儀ありだ!!」


 もしかしてこれは、何か大いなる誤解を与えてしまったのでは。胸を見ていたのは、星が見えるかどうかだったが、思い返せば何かとんでもないことを口走っていた気がする。


「ち、違う!! そうじゃなくて、ステラの胸を見ていたのはそうじゃないんだ!」

「何? 胸を見ていたくせに何をほざく!」

「トネール先生の胸元から見えている五芒星や小さい星が、君からは全く見えない! それが気になって仕方が無かっただけだ!!」

「お前、トネールの胸までも……五芒星? 小さな星だと?」


 倒された状態で追い打ちをかけられそうだったが、ようやく気づいてくれたようだ。


 既にトネール先生は、オレから星が見えることを聞いている。首を傾げるステラに対し、説明をしてくれているようだ。

 

 誰かの星が見える力については、未だによく分かっていない。だが黒と白の星の特徴を予想した限りでは、各人が使える魔術が関係しているのではないかと思い始めた。確証は無いが、同じクラスのほとんどの女子やベルング、そしてギィムからは白い星が見えている。彼らの行動や態度、気配からは悪いものを感じたことが無い。

 

 しかしボーグを始めとした王国出身の者たちからは、良くない気配を感じた上に黒い五芒星だけが浮かび上がっている。もしかすれば彼らの力は黒の感情が含まれているような、そんな気がしてならない。


「誤解を与えて悪かったな、ステラ」

「――なるほど。アタシからは星が見えていないんだな?」

「あぁ」

「ふん、当然だな。アタシには魔術が使えない。精霊の力は星では無く、自然の恵みによるもの。お前が見えているのは、黒か白どちらかの魔術が使える人間なのだろうな」


 ようやく理解してくれたようで、彼女はオレを起こしてくれた。トネール先生はその隙に、練兵場の後片付けを始めている。


「そうなるな。しかし君にも星の加護があるはずなんだが……」


 地下牢で涙を流しながら間近で見えた彼女は、星の光そのものだった。


「加護では無く、星の光を浴びただけだ。お前にもあったとおり、アタシにも光の代償があったのだからな。お前が見た光は代償の光……そういうことにしておけ」


 泣いたことをいつまでも言われたくないらしいので、納得しておく。


「そうか。それならいいんだ」

「……それはともかく、紛らわしい真似をするな! お前との関係は、そんな生易しいものでは無かったはずだぞ!」


 お互い賢者だった時も含めて、相方として長い時を一緒に過ごした。しかし特別な感情を抱いたことは無く、見つめたからといって動揺するといったことにはならなかった。生まれ変わっても、オレも彼女もその辺は変わらないままで何よりだろう。それでも全く意識していないわけでは無いのだが、彼女の反応を見る限り、意識するだけ無駄と言える。


「よし、シーク・マードレ。君は寮に戻りたまえ!」


 練兵場を片付け終えたらしく、オレに対しトネール先生からは帰りを促された。


「え、しかし稽古は……」

「ステラ様のことを思い出し、力を示した。それこそが、今日の目的でもあったのだ。ステラ様とは、明日からまた理解を深めて行けばいいのではないか?」

「そういうことでしたか。それなら、そうします」


 ステラのことを思い出し、星の力のことも話した。この時点で、オレが彼女にやれることは何も無い。そうなると先生の言うように、大人しく帰って寝るだけだ。


 時間がかなり経った感じを受けるが、時計の針はまだ遅めの夕方を指していた。この時間であれば、寮の玄関が閉まっていることは無いだろう。


「ご苦労だった、シーク・マードレ」

「それでは、オレはこれで」


 トネール先生とステラに頭を下げ、扉を開けて部屋を後にしようとすると、ステラから意外な言葉が聞こえて来た。


「シーク・エイルド。いや、シーク・マードレ! お前とまた会えて嬉しい。約束を守ってくれてありがとう。これからまた、頼むぞシーク!」


 彼女からあんな言葉が飛び出して来るとは、思ってもみなかった。王女ステラに頼まれたということは、オレも彼女の護衛として傍につくことになるのだろうか。


 いずれにしても、明日からが楽しみだ。

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