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イザーク様の世界

気がつくと、私は固いベッドの上で寝ていた。

目を開けて周りを見渡すと、薄暗い大きな部屋の中にいるようだ。


ギィッと扉が軋んで開くと、ロングスカートを履いた女性らしいシルエットが見える。

その女性は静かに壁の方に歩いていくと、なにやらゴソゴソと動いている。


しばらくすると、暖炉に炎が上がり、薪がパチパチと()ぜる音がする。

部屋の暖炉に火を入れに来たようだ。

暖炉があり、しかも火を入れるなら、ここは日本ではなく季節も違っているだろう。


私はベッドの上に起き上がる。


「ここはどこ?」


暖炉の前にいた女性は、私の前に来てひざまずく。

いつの時代かはわからないけれど、現代の服装ではない。


「お目覚めになりましたか......」


「イザーク様は? イザーク様はどこ?」


「はい、ただいまお呼びして参ります」


女性はゆっくりと一礼して部屋を出て行く。

幸いにも、イザーク様はここにいるようだ。


私はベッドから下りて、部屋の窓を開ける。

鎧戸を開けると、昇ったばかりの太陽に照らされて、いかにも西洋の貴族のお屋敷らしき風景が広がっている。


ここはきっと、イザーク様が元いた世界だと思う。

私はイザーク様と一緒に、こちらの世界に飛んで来てしまったのだ。


私は、自分が着ている服に気づく。

生地をたっぷりと使った、白いネグリジェだ。

手触りからすると上質な麻布らしいけれど、いつこんなドレスのようなネグリジェを着たのだろう。


ノックの音がする。

入ってきたのは、イザーク様だった。


「イザーク様! 良かった! ここはどこですか?」


私はイザーク様に駆け寄る。

さっき出て行った女性も、後ろから部屋に入ってくる。


「マキシミリア、ようやく意識が戻ったのだな、もちろんここは、マキシミリアの部屋だ」


私はイザーク様に抱きつこうとしたのだけれど、イザーク様の様子がおかしい。

確かに美麗なイザーク様なのだけれど、人を寄せ付けない冷酷な大魔王様の雰囲気で、イザーク様は微笑んでもいない。


「イザーク様......どうしたのでしょう?」


「私と庭を散歩している時に、マキシミリアは雷に打たれて気を失ったのだ。晴れていたのに雷に打たれるとは、敵の魔法使いの仕業かもしれない」


「この世界には魔法使いがいるのですね」


「変なことを言うのだな。マキシミリアも魔法使いだろう? 雷に打たれて、どこかおかしくなったのではないか」


「イザーク様は、私が誰だと思いますか? 真紀と言う名前に聞き覚えは?」


「本当に大丈夫か? マキシミリア? 『マキシミリア・エル・ニコレンカ』に違いないぞ」


イザーク様は私の手を取って、壁に掛けられた豪華な鏡の前に連れて行く。

鏡に映っているのは、赤みがかった金髪で、深い湖のように青い瞳をした若い女性だ。


鏡の中の女性は、驚いたように美しい目を見開き、自分のウエーブのかかった長い髪を触っている。

その愛らしい容姿をした女性が、私である事が信じられない。

私は、マキシミリア様に転生してしまったのだろうか?


またノックの音がして、痩せて背の高い女性が入ってくる。


「アラルカン大魔王様、許婚とは言え、マキシミリア様の寝室に入られるのは如何かと存じます」


「私は、やっと意識が戻ったマキシミリアに呼ばれたのだ」


「マキシミリア様はまだ寝間着姿でございます」


「それは失礼した」


イザーク様は、不機嫌な顔をして部屋を出て行く。


「マキシミリア様、王妃様がお呼びでございます。すぐお着替えをいたします」


「済みませんが、雷に打たれて、記憶が曖昧なのです。貴女はどなたでしょうか?」


「......まぁ、それは......私はマキシミリア様の侍女のオリガでございます。お忘れでしょうか?」


「あぁ、侍女のオリガね......思い出したわ......オリガね」


オリガだと言う侍女と、もう一人の召使いの手で、私は着替えをさせられる。

その召使いの名前まで聞いたら、さすがにおかしいと思われるだろう。


私は白い絹のほっそりしたドレスを着せられ、同じ生地で出来た白いケープを肩に巻かれる。

髪は一つにまとめられて、二つの角がある白い帽子を被せられる。

着替えから髪のセットまで、すべて誰かにしてもらえると、いかにもお姫様気分だ。


全体的に衣装はシンプルなのだが、帽子とケープには縁に銀色のモールが施されていて、高級感がある。

壁の鏡を覗くと、子供のころに見た絵本の中の妖精か魔法使いのようだ。

服が白いので、『正義の味方の』魔法使いのようでちょっと嬉しい。


石造りの大きな宮殿の中を、侍女の案内で歩く。

迷路のようないくつもの廊下と階段と部屋を抜けて、小さな控室に着く。


奥の壁に大きな絵の布が掛けてあり、侍女はその布をめくって隠された扉を静かに叩く。

中から扉が開くと、侍女は私に目で合図をして、私を先にその部屋に通した。


底冷えのする宮殿の中を通ってきたが、この部屋は、暖房が入っているのか暖かい。

部屋は高貴な女性の私室らしく、豪華な装飾の中に女性らしいきらびやかさがある。


小さなテーブルがあり、その側の椅子にゆったりと腰を下ろしているのが王妃様だろうか。

私は失礼にならないように、深々としたお辞儀をする。


「三日も意識がなかったそうだけれど、ようやく良くなったのね?」


「......はい......ご迷惑をおかけいたしました」


とりあえず、謝っておこう。


「それでは、早速、清浄の魔法と結界を張りなさい。もう聞いているだろうけれど、マキシミリアが眠っている間に、私の食事に毒が入れられて、毒味役の食事係が亡くなったのよ」


王妃様、いきなり怖いことを言いましたね......。

今までお姫様気分でしたが、ここはそんな危険な世界だったのですね!



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