マキシミリア様の呪い(マキシミリア視点)
私は、今日もイザーク様と宮殿の中庭を散歩しております。
イザーク様は私の許婚で、アラルカン大魔王様と称される美丈夫でございます。
全身黒ずくめの服装といい、黒髪で、オッドアイの容姿から『闇と光を抱く大魔王』と恐れられておりますが、実は私の方が魔力は勝っているのでございます。
イザーク様が恐ろしげに見える服装や言葉使いをしているのは、魔力が低いのを見破られない為だと、私は知っております。
それで魔力の優れた私と結婚して、強力な魔力の子供を得たいと思っているのでしょう。
「イザーク様、結婚は愛し合っている者同士ですべきですわ。血筋や階級、思惑でするものではありません」
私は子供を作る道具ではございませんから、私の意見は当然でございます。
「私達はどうなのだ? マキシミリア、子供のころから決まっている結婚もあるだろう」
私が何度言っても、イザーク様にはわかってもらえないのでございます。
他人に決められる結婚には意味が無いことが、どうして理解できないのでしょうか。
「ですから、何度も言うように、私達も愛し合うべきなのです。毎日決まった時間に会って、お互いを褒めたたえ、愛情を作り上げるべきなのです」
「そのようにして、マキシミリアは私に愛情が持てるのか?」
「私の方が魔力が強いし、容姿も優れているのですから、イザーク様がまず私を愛するべきです」
私は、何も間違ったことを言っておりません。
許婚と決められていたら、何も努力もせずに私の愛情を得られるとでも思っているのでしょうか?
「だから言われた通りに毎日こうして散歩しているだろう、これ以上何をしろと言うのだ?」
「それは、イザーク様が考えるべきです」
それはイザーク様の問題で、私の問題ではないと思います。
私は怒りが溜まって来ると、言葉使いが少々乱雑になってしまうのでございます。
その時、綺麗に晴れていた空から、白く輝く光が放たれたのが見えました。
その光は、まるで雷のように私を撃ったのでございます。
気がつくと、私は薄暗い場所で倒れておりました。
辺りを見回すと、とても狭い牢獄のような部屋でございました。
立ち上がって窓に掛かっている布を開けると、小綺麗な建物がいくつも並んでおります。
ここは、一体どこでしょうか?
「オリガ! オリガ!」
呼んでも誰も来ません。
私は、自分の身体を見て驚きました。
変な形のブラウスに、見たことも無いスカートを穿いているではありませんか。
服を捲ってみると、下着も妙な形で、靴も履いておりません。
室内に掛けてある服に目が止まります。
色が少し褪めてはいますが、イザーク様がいつも着ている衣装のようです。
まさか、ここはイザーク様の隠し部屋でしょうか?
「イザーク様?」
呼んでも応えはありません。
ドアを開けて隣の部屋に行くと、ごく小さな水呑場と幾つかの部屋に繋がるドアが見えます。
片っ端から開けて見ても、見慣れた物は何一つありません。
そして、壁に掛けられた四角い鏡を見つけました。
鏡の中から私を見返していたのは、短い黒髪と、黒い瞳を持った異国の若い娘でございました。
この娘が私なのでしょうか?
これは何かの呪いか、魔法に違いありません。
これほどの魔法を使えるのは、この世界に私しかいないでしょう。
私が自分に魔法を掛けるはずも無いのですから、これはきっと恐ろしい呪いに決まっています。
呪いを解く鍵がないかと、私は部屋の中を探し回ります。
部屋の中は見慣れない物ばかりで、私は呪いで異世界に飛ばされたに違いありません。
イザーク様は、魔力が足りないために衣服だけになり、私は異世界の娘となって生き残ったのでしょう。
部屋を探していると、私は中身の見える袋に入った、白いパンのような物を見つけました。
匂いを嗅ぐと良い匂いがします。
試しに一口食べてみると、柔らかく、甘くてとても美味しいではありませんか。
台所にあった白い箱は、開けると明かりがついて、しかも涼しい風が吹いて来るのです。
中には食材らしき見知らぬ果物や、飲み物がたくさん入っています。
オレンジが描かれた瓶を開けると、新鮮なオレンジの果汁でした。
この世界は、思ったよりも暮らしやすいかもしれません。
召使いも、すぐに見つけられるでしょう。
ごく小さな、けれど非常に柔らかいベッドに座って周りを眺めていると、突然、テーブルの上に置かれた小さな箱が振動し、音楽を流し始めました。
これは何でしょうか? この世界にも魔法があるのでしょうか!
私はその小さな箱に近づきます。
明るく光っている表面に、そっと指を滑らせると、音楽と振動が止まりました。
ほっとしたのも束の間、今度はその箱から声が聞こえて来たではありませんか。
「マキ? どこにいるの? 今日はシフトがある日だよ?」




