イザーク様の決断(イザーク視点)
私はまだすべき仕事が残っていたので、早めにマキシミリアの部屋を出る。
マキシミリアは、部屋の外まで私を見送りに来た。
今まで私に対して、マキシミリアがこのような対応をしたのは初めてだ。
おまけに廊下の端で私が振り返ると、マキシミリアはまだ私を見送っており、更に頭を下げてお辞儀をしているではないか。
私は思わず右手を挙げて挨拶を返した。
このマキシミリアは以前のマキシミリアではない。
話し方も、傲慢なところは全くないし、第一に私を見る目の表情が違う。
このマキシミリアを愛することはなんと簡単だろう!
前のマキシミリアは『愛する努力が足りない』と言ったが、このマキシミリアを愛するには努力など必要がないのだ。
私は婚約の品の宝石を、まだマキシミリアに渡していなかった。
準備が出来ていなかったのではない。
積極的に渡そうという気持ちがなく、いずれそのうちにと思っていて渡していなかった。
雷に打たれた後のマキシミリアは、人が変わったように愛らしく聡明で、私を信頼し、思いを寄せてくれているのがよくわかる。
このマキシミリアには、はっきりとした形で報いたいと心から思ったのだ。
私は毒殺事件を調べている間に、ロベールが怪しいと気づいて、動向を探らせていた。
中庭でロベールがマキシミリアと会っていると報告が来たとき、私は心中穏やかではなかった。
物陰で二人の様子を窺っていると、ロベールは花を捧げてマキシミリアを口説いているようだ。
私はすぐにも出て行って、ロベールの汚い手をマキシミリアから払いのけたくて仕方がない。
しかしマキシミリアはロベールの手を振り払った。
「触らないで! 貴方なんて、好きじゃないです! 私はイザーク様の許婚です。貴方よりイザーク様の方が、ずっと信頼できます!」
増幅したマキシミリアの声が、私の頭の中に響く。
マキシミリアは金髪の色男ではなく、大魔王と恐れられる私が許婚であり、信頼できると言ったのだ。
「マキシミリア、待って、君を愛しているんだ! 君のためにすべてを捨てる覚悟をしているんだ!」
ロベールの絶望的な声が響く。
もうこんな声は増幅して聞く価値はない。
マキシミリアが建物の中に入ったのを確認し、私はロベールの前に姿を現わす。
「アラルカン大魔王様! なぜここに......」
「さぁ、なぜだろうな。お前には色々と聞かねばならぬ事があるのだ」
ロベールは逃げようとしたが、私を甘く見ている。
私にはマキシミリアほどの魔力はないが、騎士一人を拘束するぐらいは簡単だ。
暴れるロベールを掴んで、尋問部屋に入った私は、王妃様直属の尋問官にロベールの身柄を渡す。
尋問部屋の隣には、当然拷問部屋があり、恐ろしい道具の数々が壁にかかっている。
ほとんどの場合は、拷問部屋を見ただけで失神して、部屋を使う前に犯した罪を白状する。
でも、ロベールは仮にも近衛騎士なのであるから、少しは抵抗するのではないか。
それぐらいの気概は見せても良いだろう。
ところがロベールは失神はしなかったものの、真っ青な顔になって、すぐペラペラと聞かれていない事まで喋りだす。
自分は悪くない、人に強制されて仕方なかった、止めたかったが脅されていた、とか自己保身の言い訳ばかりだ。
その言葉の真偽は裏をとらねばならないが、今回の毒殺事件はメリュジーヌ様が企てたものだが、黒幕には隣国の将軍が関与しているようだ。
我が国に内乱を起こして、その隙に侵略を謀っているらしい。
王族の毒殺事件は国家反逆罪であるから、関わった者達は厳重に処罰される。
この国で毒殺事件は目新しいものではない。
そのために、強い力の魔法使いが王族や貴族を側で守っているのだ。
マキシミリアの中身が変わってしまって、もし、魔力がなかったなら、マキシミリアは今の地位にいられない。
すぐに第二位の魔法使いと交代し、王宮での仕事も出来ないだろう。
魔力がなければ、私との婚約も取り消されるかもしれない。
私は魔力のないマキシミリアと結婚したいのか、それとも、魔力の豊富な子供を得るために、別の魔法使いと結婚した方が良いのだろうか。
毒殺事件が速やかに、密かに解決するには一週間あまりを要した。
その間、マキシミリアは部屋で待機を命ぜられていた。
私は久しぶりに、マキシミリアの部屋を訪ねた。




