近衛騎士のロベール
私がマキシミリアではなくマキであると、イザーク様にばれた。
「......なんだと!......お前は誰だ!」
イザーク様は私の言葉を聞くと一瞬で顔の色が変わり、恐ろしい勢いで私を捕まえる。
優しい抱擁ではなく、犯罪者を検挙するように。
私の意識では、イザーク様と気持ちが通いあって、初めてのキスをしたのは昨日のことだ。
昨日、心からのキスをして抱きしめあったのに、今日は私に会って笑いもせず、大きな声で詰問される。
心の準備もなくマキシミリア様になってしまうし、王妃様とか、魔法使いとか、毒殺事件とか、色々ありすぎて情緒不安定になっていた私は、心の張りを失って泣いてしまう。
「私は、マキシミリア様の遠い子孫のマキです。イザーク様と心からのキスをして封印を解いたら、この世界に飛ばされて来たのです」
私は泣きながらイザーク様に説明する。
毎日楽しく会話して、お互いわかりあえたと思った相手が、たった一晩で私を冷たく見下ろしている。
私が一生懸命説明しても、イザーク様の態度は変わらない。
イザーク様はマキシミリア様を愛していたと言ったのに、こんな冷たい態度で接していたのだろうか。
イザーク様は、私にも魔力があるかどうかが気になっているだけで、私がこれほどイザーク様の態度に傷ついているのに気がつかない。
私が王妃様をお守りするのは無理と言ったときも、どうせこの後一年で魔法使いは辞めて結婚するのだと、関心なさそうに答えたのだ。
イザーク様と結婚! もし、私がこのままマキシミリア様になっていたら、当然リザベラ様との事情も知っているから、イザーク様を封印しない。
封印しなければ、一年後にはイザーク様と結婚が決まっている。
私をしっかり囲い込んで、じっと私を見下ろしているイザーク様のオッドアイを見上げる。
嫌でも昨日のキスが思い出される。
イザーク様はちょうど今のように、私をじっと見つめていたのだ。
私はきっと真っ赤になっているに違いない。
私と目が合うと、イザーク様は戸惑ったように身じろぎをして、私を捕まえていた腕を解いて距離を置く。
イザーク様の突き刺すような険しい眼差しはなくなったけれど、私に興味もなくしてしまったのが悲しい。
「マキシミリア様はイザーク様を封印した後、騎士様と結婚するのです。私はマキシミリア様と騎士様の子孫なのです」
私は、イザーク様に爆弾を投下したつもりだ。
マキシミリア様がイザーク様と結婚しないと聞いたら、イザーク様は怒り狂うのではないかと思ったのだ。
「マキシミリアは、私とは結婚しないのだな?」
イザーク様の言葉の中には怒りがない。
マキシミリア様に封印されて、ようやくイザーク様はマキシミリア様の大切さと、失った愛情の重さを知るのだ。
これだけマキシミリア様に対する熱がないのなら、一年後に私と結婚しても、冷たいままの結婚生活になってしまうだろう。
私はこの世界に飛ばされて、魔力もないし、イザーク様は冷たいし、どうしたら良いのだろう......。
「マキシミリア、とにかく今は毒殺事件の調査が先だ。さっきマキシミリアが言った事のすべてを信じる訳ではないが、いつものマキシミリアではないことはわかっている。とりあえず、雷に打たれて体調を崩していると言って、余計なことはしないで部屋にこもっているのだ」
「はい、かしこまりました。イザーク様、何かあったら、教えていただけますか?」
「うむ、わかった......マキシミリア......いや、いい......」
イザーク様はくるりと後ろを向くと、足早に部屋を出て行く。
私は一人取り残される。
何もすることがないので、私は部屋の探索を始める。
部屋には窓があって、外の景色が見える。
この建物は宮殿の一部らしく、二階のこの部屋から中庭も見える。
さほど広くはないが、綺麗に刈り込まれた植木や、花壇があって、ベンチも置いてある。
窓から見ていると、ベンチの側に一人の若い男性が歩いてきて、私の方を見上げて目が合う。
「マキシミリア、目が覚めたんだね! 良かった! ちょっと降りて来ないか?」
その男性は私を見ると、被っていた帽子を手に取って振り回す。
金色の髪が光を反射するようにキラキラと輝く。
背がスラッと高くて、鼻筋が通り、甘いマスクの美男子だ。
喋り方からして、マキシミリア様と親しいようだ。
この人と話をすれば、マキシミリア様の周辺の事情が何かわかるかもしれない。
「今、行きます」
私は、さっき王妃様に呼ばれたときに通ったので、下に行く階段の位置を知っている。
「雷に打たれたので、まだ少し記憶がおかしいのです。ごめんなさいね、えーと、貴方のお名前は......」
「いやだなぁ、俺の名前も忘れるなんて......ロベールだよ、近衛騎士のロベール!」
「あぁ、そうでしたわ、忘れるなんて、どうかしていますね、ロベール様、失礼いたしました」
「マキシミリア? やっぱりまだ体調が戻っていないのかな? でも、相変わらず美しさは変わらないよ!」
「マキシミリアが雷に打たれたと聞いたときは、本当に心配したんだ......私の女神が消えてしまったら、俺も生きていけないからね......」
ロベール様は花壇の花を一輪、ブチッと折り取る。
「マキシミリア、君はこの花よりもずっと美しいけれど、この花を見ると、俺はいつもマキシミリアを思い出すんだ」
えーと、ロベール様って、もしかして私を口説いていますか?
それに、この気障な台詞、気持ち悪いとしか思えないんですが。
「私は、イザーク様の許婚なのですが」
「親に決められた許婚だよね? マキシミリアはいつもそう言って嫌がっているじゃないか? 結婚はお互い愛し合っている者同士ですべきだって」




