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イザーク様の疑問(イザーク視点)

その日の午後、私はもう一度マキシミリアに呼ばれた。

一日に何度も呼ばれることも珍しい。


私がマキシミリアの居間に行くと、マキシミリアは髪と同じ色のデイドレスを着て待っていた。

今回もマキシミリアは、いかにも嬉しそうな顔で小走りに私に近寄ってくる。


いつものマキシミリアの態度とは違いがありすぎて、私は平常心を保てない。

花がたった今、咲いたように、パアッと表情を明るく変えて、私に駆け寄るマキシミリアは何と愛らしいのだろう。


私は全力で動揺を抑えて、礼儀正しくマキシミリアの手を取る。

熱を込めて指先にキスをしそうな自分を、自制出来たのは誉められても良いだろう。


目を上げてマキシミリアを見れば、なぜか失望の色が浮かんでいるようだ。


「イザーク様、折り入って重大なお話があるのです」


マキシミリアが私の名前を呼ぶとき、甘えるような優しい響きを感じるのはなぜだろう。

私に近寄って、小さな声で囁くように話したりは決してしなかったのに。


目覚めて初めて、マキシミリアは毒殺事件を知ったようで、恐ろしそうに私に確認する。

珍しくない毒殺事件なのに、マキシミリアはなぜこれほど怯えているのだろう。


「イザーク様は侍女のリザベラ様にもご注意ください。何かを企んでいると思います」


私に何かと用事を作って近付いて来る侍女のリザベラが怪しいと気付いて、監視を始めたのは最近だ。

まだ誰にも話していないのに、なぜマキシミリアは気付いたのだろう。


理由を尋ねても、マキシミリアは申し訳なさそうにするけれど答えない。

マキシミリアに口止めをすると、怯えて泣きそうな声で言う。


「イザーク様の言葉が怖いです。いつもこんな話し方なのでしょうか?

イザーク様は、マキシミリア様を愛していると、言っていたじゃないですか」


私は誰にも、マキシミリアを愛していると言ったことなどない。


「......なんだと!......お前は誰だ!」


私はマキシミリアを両手で捕まえて、逃げられないようにしっかりと抱え込むと目を覗き込む。

たちまちマキシミリアの美しい青い瞳が涙で溢れて、目の縁から一筋の涙がこぼれ落ちた。


マキシミリアが私の腕の中で泣くはずがない。

ここにいるのはマキシミリアに間違いはないが、これはマキシミリアではない。


「私は、マキシミリア様の遠い子孫のマキです。イザーク様と心からのキスをして封印を解いたら、この世界に飛ばされて来たのです」


「............」


私はマキシミリアが何を言っているのか、理解できない。

なぜマキシミリアの子孫がマキシミリアになっているのか?

しかも、私と心からのキスをしたというが、私にそんな心当たりはない。


「マキシミリア様の魔法で、千年もイザーク様が封印されたのです」


それならば、或いは、可能性はある。


「私が、なぜマキシミリアに千年も封印されるのだ?」


「それはマキシミリア様が、イザーク様とリザベラ様が恋人だと誤解したからです」


なるほど、あの潔癖なマキシミリアがそう誤解すれば、極端な魔法を発動させるかもしれない。

私はリザベラを監視して情報を掴むために、リザベラが私に近寄るのを許していたのだ。


「ですから、封印の原因となるリザベラ様と接触しないで下さい」


「それは無理だ。リザベラが毒殺事件と関係があるのか調べているところなのだ」


「それではせめて、マキシミリア様に見つからないようにしてください」


「マキと言ったな? お前がマキシミリアなら、理由も知っているので封印は起こらないだろう?」


「そうでした! でも、私はいつまでこの場所にいるかもわからないですし......」


マキがここにいるのは、マキ自身が望んだわけではなさそうだ。

姿形はマキシミリアだが、中身がマキシミリアではないことはよくわかる。


「マキに魔法の力はあるのか?」


「いいえ! そんな力は全然ありません! ですから封印も無理ですし、王妃様を結界で守ったりもできないので、魔法使いの仕事を辞めたいのです」


「あと一年でマキシミリアは役目を終えて、私と結婚するのだ」


マキシミリアは私を見上げると、ボッと顔を赤くする。

耳まで赤くなったマキシミリアは、青い瞳を潤ませてはにかむ。


私とマキシミリアが結婚するのは以前から決まっていたし、マキシミリアがそれで感情を動かされたこともない。

ましてマキシミリアが、はにかむのは初めて見た。


私は激しく動揺せざるを得ない。

今まで尋問するためにマキシミリアを捕まえていたのだが、これでは愛して抱きしめているようではないか。


私は慌てていることを悟られないように、ゆっくりと腕を解いて、マキシミリアから離れる。

なぜマキシミリアは寂しそうに微笑むのだ?


「マキシミリア様はイザーク様を封印した後、騎士様と結婚するのです。私はマキシミリア様と騎士様の子孫なのです」


「マキシミリアは、私とは結婚しないのだな?」


私の胸に失望が広がる。

だがそれは、自尊心を傷つけられる痛みであって、恋人を奪われる絶望ではない。


私にとって、マキシミリアは愛する対象ではなかったのか。

だからこそマキシミリアは愛するために努力しろと言ったのだろうか。


もし、マキシミリアの中身がマキだったら? 私はマキシミリアを失っても後悔しないのだろうか?




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