イザーク様の当惑(イザーク視点)
私は、許婚のマキシミリアと庭を散歩している。
人目につきやすい王宮の庭で許婚と散歩するのは、義務を果たしている証明だ。
この国では、王や貴族を結界で守ったり補佐をする魔法使いは、あくまで生れつきの容姿と魔力次第で決まる。
私は生れつきのオッドアイを恐れられたのか、神殿の門の前に捨てられた赤子だった。
黒髪とオッドアイを共に持つ者は、百年に一度の大魔王になるとの言い伝えと、知力と体力と、少しばかりの魔力によって、私は王の筆頭魔法使いにまで上り詰めたのだ。
マキシミリアは先代の王妃の筆頭魔法使いの娘で、金色に近い赤毛と青い瞳を受け継いでいる。
まさに魔法使いに相応しい容姿で、凄まじい魔力の持ち主だ。
女性の魔法使いは十八歳の成人後、三年間のみ王妃や貴族に仕え、その後は魔力のある男と結婚して子供を産み、魔力の継承に努める。
結婚は同等の魔力と認められた者同士で決められ、選択の余地は無いに等しい。
神殿の中で子供のころから魔王とあだ名された私は、十五歳の時に、群を抜く魔力を持つマキシミリアと許婚になったのだ。
マキシミリアが成人して王妃の代々の魔法使いの名前、ニコレンカを名乗ったとき、既に王の筆頭魔法使いの名前、アラルカンを名乗っていた私と三年後に結婚するのは、ごく自然だった。
「イザーク様、陛下がメリュジーヌ様を度々お召しになるそうですが、なぜ陛下は王妃様をお召しにならないのでしょうか? 王妃様をお召しになるべきではないでしょうか?」
マキシミリアの『べき』が始まる。
「筆頭魔法使いなのですから、イザーク様は陛下にそう申し上げるべきです」
王妃は何年も懐妊の兆候がないのだから、血筋で王権を保たねばならぬ王が、第二妃や何人もの妾を持つのは当然だ。
妾の好みが偏っていたとしても、それは王の問題だ。
「結婚は愛し合っている者同士ですべきですわ。血筋や階級、思惑でするものではありません」
「私達はどうなのだ? マキシミリア、子供のころから決まっている結婚もあるだろう」
「ですから、何度も言うように、私達も愛し合うべきなのです。毎日決まった時間に会って、お互いを褒めたたえ、愛情を作り上げるべきなのです」
マキシミリアは魔力は凄まじいが、まだ若いせいか純粋過ぎる。
努力しなければならない愛情は、真実の愛情にはならないだろう。
若いときには理想を追い求めるものだが、結婚してからゆっくりと愛情を育めば良いと思う。
「そのようにして、マキシミリアは私に愛情が持てるのか?」
「私の方が魔力が強いし、容姿も優れているのですから、イザーク様がまず私を愛するべきです」
マキシミリアは確かに魔力も並外れているし、海を思わせる青い瞳も、真っ白い肌に薄紅をはく頬も、愛らしい果実のような唇も、初めて見る人を魅了して止まない容姿をしている。
けれど、マキシミリアの自信の行き過ぎた傲慢と、妥協を許さない一途さゆえの頑固な所は、マキシミリアの美点を台なしにしている。
本人に自覚が無い所も問題なのだが、私は長い時間を掛けて徐々に気付いてくれるのではと、楽観している。
「だから言われた通りに毎日こうして散歩しているだろう、これ以上何をしろと言うのだ?」
「それは、イザーク様が考えるべきです」
その時、晴れていた空から一筋の強い光が射し、マキシミリアを直撃した。
マキシミリアはその場に昏倒する。
「マキシミリア!」
私はマキシミリアに駆け寄って、身体を抱き上げる。
声を掛けても反応は無い。
急いで宮殿の医師の元に運んでも、外傷もないのに意識が戻らない。
魔法使いが集まって清浄の魔法をかけても効き目はなかった。
私は毎日マキシミリアの居間に顔を出していたが、マキシミリアは意識を失って眠りつづけている。
それが三日に及んだ時、私はこのままマキシミリアの意識が戻らない可能性を考えた。
私の許婚であるし、私と散歩中の事故であるから、私はマキシミリアの意識が戻らなくても結婚して、ずっとマキシミリアの側にいたい。
それが私なりの愛情の表し方だと思ったのだ。
四日目の朝が開けたとき、王の執務室に行く前にマキシミリアの居間に寄ると、マキシミリアの小間使いが小走りに近付いてくる。
「マキシミリア様の意識がお戻りになりました。アラルカン大魔王様を呼んでいらっしゃいます」
私は急いでマキシミリアの寝室に入る。
マキシミリアは起きていて、私の姿を見ると嬉しそうに走り寄ってくる。
今までマキシミリアが私と会って嬉しそうにしたことも、走り寄って来たこともない。
「イザーク様! 良かった! ここはどこですか?」
「マキシミリア、ようやく意識が戻ったのだな、もちろんここは、マキシミリアの部屋だ」
マキシミリアの様子が明らかにおかしい。
さっきは、私に抱きつきそうな様子にさえ見えた。
おまけにこの世界に魔法使いがいるのか、とか、自分が誰であるかとか、信じられない話ばかりする。
マキシミリアは雷に打たれて、記憶を失ってしまったのか。
私はマキシミリアを鏡の前に連れていったが、マキシミリアは自分の顔に見覚えがないようだ。
その後、侍女のオリガに寝室から出されてしまった私は、マキシミリアの異変をどう判断すれば良いのか、悩んでいた。




