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封印された魔王様の登場

新連載を始めました。

私の前作『手芸大好き令嬢の天職はドレス作りです』とは少し雰囲気が違いますが、読んでいただければとっても嬉しいです!

私は斉上真紀(さいじょうまき)、今年の五月で二十九歳になったばかりだ。

なったばかり、と言うよりは、二十九歳になってしまったというべきか。


私は子供のころから、二十七歳までには結婚すると、なんの根拠もなく信じていた。

二歳年上の優しい夫と、贅沢ではないけれど、愛情あふれる家庭を築けると思っていたのだ。


でも、私の思い込みは、すべてはずれた。

私は二十八歳で優斗と結婚して、共働きの新婚生活に入っているはずだった。


「真紀以外の女と結婚する気はない、生涯真紀一人を思い続ける」と言って、強引に迫ってきたのは優斗の方だ。


その時二十五歳の私は、中堅企業の人事部に勤務していて、納里優斗(のうりゆうと)は二十一歳の大学三年生だった。

優斗は、私の働く企業に夏休みの間インターンに来ていたのだ。


ぐいぐいアプローチしてくる優斗を、最初は弟のようにあしらっていた私だったけれど、真っ直ぐにぶつかってくる情熱にほだされて、いつしか優斗は恋人になった。


遠い地方から大学に出て来た優斗は、一人暮らしの私のアパートに泊まる事が多くなり、そして結局なし崩し的に同棲した。


その後優斗は、就職せずに大学院に進み、修士課程を終えたら就職して私と結婚するはずだった。


優斗は嫉妬深くて、男性社員が多かった私の職場を辞めさせ、女性がほとんどで、外に出ないコールセンターに転職までさせたのだ。


それも、どうせ結婚したら私は会社を辞めて、優斗の勤務先に近い場所に新居を構えるのだから、と優斗が強引に言い張ったのだ。


企業の内定が出たら親に紹介して、具体的な結婚式の準備も始めると優斗は常々言っていたので、私はそれを信じて、部屋代や生活費など、タダ同然で優斗を同居させていた。


ところが、就職活動中に大学四年の女の子と知り合った優斗は、突然激しい恋に落ちた。


新しい恋人を隠しもせずに「初々しくて可愛い」だの、「頼られて、初めて男として自信が出来た」だの言って、おまけに「真紀は姉のように大事に思っている」なんて言われたので、私は優斗を部屋から叩き出したのだ。


私が『捨てないで』と優斗に縋らなかったのは、四歳年上と言う負い目があったからだろうか。

それとも、みっともない真似はしたくないという、最後の矜持だったろうか。


それでもふと、会社帰りに、「早く帰って優斗に夕食を作らなくちゃ」と無意識に思ったり、「これを買って帰ろう」と思ったものが優斗の好物だったりして、その度に忘れ切れていない自分に打ちのめされたのだ。



コールセンターは、県庁所在地の駅に程近いビルにある。

私のアパートは、そこから電車で二駅だ。


その日も会社が終わった後で、駅前のスーパーで食材を買い、アパートへの道を歩く。

ふと、空を見上げると、満月だった。


優斗と付き合い始めた頃は、満月を見ると、優斗はわざわざ電話をくれた。


「満月を見ると、何故か真紀さんの事を思い出すんです。これからちょっと会いませんか?」


そんな甘い誘いの言葉も、遠い昔に消え失せたけれど。


アパートの部屋に入ると、閉めきっていた部屋の熱気が、充満している。

私は窓を開けて、部屋の空気を入れ換える。


目の前は、同じようなアパートが並んでいるけれど、空を見上げると、大きな月が見える。


その時、空に一瞬の眩しい輝きが見えたと思った瞬間、まるで雷が落ちたような大きな音と激しい振動が、この部屋を貫いたのだ。


地震だと思った。

本当にこのアパートがグラグラと揺れたのだ。


私は目眩を覚えて、窓際の机に手をつく。


部屋の揺れはすぐに収まり、大きな揺れだと思った割には棚から物も落ちなかった。

部屋を見回すと、私は床にティッシュの箱ぐらいの、見知らぬ物が落ちているのに気付く。


それは真っ黒な長四角の物体で、表面にとても細かい模様が彫られている。

手で拾い上げようとすると、接着剤でピッタリ床に貼り付けたように動かない。


「何だろう?これ」


私がつぶやくと、物体から声がする。


「ようやく見つけたぞ! 早くこれを開けろ!」


私は驚いて、後ずさる。

何だろう、これは? 新型のスピーカー? それとも、言葉で操作するデバイス?


カメラもコードも充電端子も付いていないようだけれど、『見つけたぞ!』と言うのは、まさかこちらが見えるモニターなのだろうか?

開けろと言われても、蓋らしき物も無ければ、スイッチ類も一切無い。


「早くしろ! 遅い! いつまで待たせるんだ!」


男の声は、イライラと怒りを含んでいる。

その声を聞くと、私の職業意識が発動する。

私はコールセンターで、毎日こんなクレームを聞いているのだ。


私はカーテンの陰に隠れて、そこから目だけ出すと、出来るだけ冷静に尋ねる。


「大変お待たせいたしまして、申し訳ございません。ご用件をお話し下さい」


「用件? とにかくこれを開けて、俺様を解放するんだ!」


「それでは最初に、お名前とご住所をお伺いいたします」


「名前だと? 当然俺様の名前は(あまね)く世に知られているだろうが......聞いて驚くなよ......我が名はこの世を()べる大魔王にして全能の魔法使い『イザーク・アルファ・トビリシニ・エル・アラルカン』だ!」


「......」


「聞こえたか? 余りの衝撃に声を失ったようだな」


「それでは、えーと、イザーク・アルト......エラルカン様、ご住所をどうぞ」


「俺様の名前を間違えるとは、無礼千万な! 

『イザーク・アルファ・トビリシニ・エル・アラルカン』だ、馬鹿者!」


「大変失礼致しました

それでは、『イザーク・アルファ・トビリシニ・エル・アラルカン』様、ご住所をお願いいたします」


「何だと! 住所とは! お前の先祖が、俺様をこの狭い箱に封印したのだろう!」


「えっ、私の先祖ですか?」


私の頭の中には???がたくさん浮かぶ。


「そうだ、お前の先祖の小癪な魔法使い『マキシミリア・エル・ニコレンカ』が俺様を千年もの間、この箱に封印したのだ! 早く封印を解いて、俺様を外に出すのだ!」





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