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攻撃こそ最大の防御だとはよく言ったものだ、と思いながら椿の四季神妨害工作の報告を読む。やられた事は倍返しが当然だよな、と言わんばかりの行動力に舌を巻いた。一体これほどのことをやる時間がどこにあるのだろうとも思う。



「椿さんってば、私のこと大好きね」



ふふ、と楽しそうに笑うと部屋の外にいる紀行は「坊ちゃんはね、本当にねぇ」と遠い目をした。椿は身内にもバッチバチに警戒していたので彼もそれなりに睨まれている。流石に今ではもうそこまでではないが、薫子が怪我なんてした暁には自分は無事では済まないことだけはわかる。



「けれど、やはりそろそろ動かなくては面倒になりそうよねぇ」



別に守られて、愛されていることに不満はない。休みもほとんど家から出ることがかなわなくとも薫子は元々引きこもり気質なので、問題はなかった。

しかし、四季神円は数年かけてひたすらに薫子の地雷を踏んできた。むしろ、自分で設置して自分で踏んでいるような感じですらある。舞香にちょっかいをかけたなら舞香だけ見ていれば良いのにと薫子は眉を顰めた。



「お母様には悪いけれど、利用させていただくのも一つの案かしら」



一応悪いけれどとか言っているけれど、薫子は自分が捨てられた自覚がそこそこあるので、別に罪悪感を持つほど悪いとは思っていなかったりする。

一応、桜子が一部四季神のやらかしを教えてくれている部分もあるが、彼女はそれを知らないのである意味では無理のない話だ。


実の父親は父親で、最近はたまに会っているが、「薫子とはきっちり血がつながっているみたいで安心したよ〜」とか言って薫子にDNA鑑定の検査結果を見せて鑑にプロレス技をかけられていた。

自分は親として欠陥している自覚も今ではあるらしく「お金と絵しか用意できないみたいなんだ。僕は。だからそちらで健やかに過ごしなさい」と穏やかな顔で言われた。元々はこういう、穏やかな人なのか、と薫子は最近になってようやく知った。

幼い薫子の目に映る彼はいつも何かを押し殺したような笑顔だった。


それを言うのであれば、欠陥があるのは自分もだろう、と両親を思いながら考える。

薫子の世界は基本的に祖父母と清子、幼馴染の二人で構成されていて、その他は多少差はあれども切り捨てることのできる存在だ。何かに向ける情熱は特に無く、ただただ飢えるような感覚ばかりがあった。それは椿のお陰でようやく満たされた。

けれど、その他に強い感情を彼女は抱かない。抱けないのかもしれない。


そんな自分に漠然とした不安を抱えながら、そっと「椿さんに会いたい」と心の内で呟いた。

椿がそばにいる間だけは自分が特別な何かになれた気がした。彼はよく、「あなたの望むことを、望むだけ」なんていうけれど、薫子は「自分の望みってなんだろう」と今でもずっと考える。


そうあるべき、と彼女は育った。

では、望みとは何か。


わからない。

わからないけれど。


椿だけは渡せないのだと、手放せないということだけは知っていた。

たとえ他者からは異常に見えようと、あの身を焦がすような熱を秘めた瞳が、誰かに向かうことだけは許せそうになかった。


あるいはそれが望みというものだろうかと首を傾げる。

これが自分の唯一の望みだというのであれば、なんて強欲で度し難い女なのだろう。



(結局私も、薫子なのね)



ある手紙を認めながら、彼女はそう自嘲するように笑みを浮かべた。

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