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舞香が嗅ぎ回った限りでは薫子を妬む声はあるが、春宮に喧嘩を売ろうとか思っている人間はいなかった。そりゃそうである。この年齢になってくると多くは分別がつくようになってくるものだ。自分の家の企業との取引がなくなる可能性があるのにちょっかいかけたり普通はしない。


評判も悪くない。寧ろ椿の方が危険近付くなというレッテルを貼られている。

あれだけ薫子をガチガチに縛っていれば仕方がないだろう。というか、あれだけ纏わりつかれているのに世話をされながら「まぁ、ありがとう。椿さんは気がきくわね」とほわほわ嬉しそうに言う薫子がヤバい。


知れば知るほど、彼女達に手を出すのがヤバいとわかる。けれど、円はそれを望んでいるようだ。



「どうしろっていうのよ」



困ったことに、それでも彼が好きだった。

恋はきっと理屈ではないのだ。


彼は薫子に害意を持つ数人と交流を持っているらしい。このまま何もしなければ、円の視界に自分は入らないのだろうなと舞香も気がついていた。





「最近、椿さんの周囲にまた女の子が集まっているのだけれどなぜかしら」



薫子の言葉に紗也は真っ青な顔をした。言っても聞かないとかいうよりは、言い訳では通じないと知っている。なので彼女も精一杯情報を集めた。その結果、四季神という後ろ盾があるから好き勝手しても大丈夫だと考える家の者だということが発覚している。

その説明を聞きながら、薫子は、それならば紗也が対応しきれなくても仕方がないなぁと苦笑した。



「そうねぇ。明確に春宮のバックアップがあるとわかった方がやりやすいわよねぇ」



呟かれた言葉に少しだけ息を吐く。どうせやらされるのであればその通りではある。

手っ取り早く関係性を知らしめたいのなら婚約関連で大々的に周囲に知らしめるという方法もあるが、そこまで派手に動いてはせっかく「周囲がいなければほとんど何もできないお嬢様」と対外的に思われているのが台無しになってしまう。

他家に頼るとかは自分や諾子の身を要求してくる人間の多さを知っているので気が乗らない。


うーん、と考えていると後ろから「hey!カオルコ」と陽気な声がかかった。その腕には虚空を見つめる花弥がいた。学校でお姫様抱っこは目立つ。



「薫子様、ご機嫌麗しゅう…」


「ルークさん、花弥さん。仲が良さそうで何よりだわ」



おっとりと微笑む薫子を見つめながら紗也は遠い目をしていた。巻き髪の美少女が王子様系男子にお姫様抱っことか少女漫画の世界だけかと思っていた。自分には一切浮いた話はないので余計にかも知れない。



「カヤは可愛いからね。一瞬だって離したくないのさ」



だからイギリスから追いかけてきてしまったよ!なんて爽やかに言う彼に花弥は真っ赤な顔をした。

ルーク・シルヴェールはイギリスのブランド食器会社の次代である。たまたまパーティーで出会う機会があって、なぜか気に入った薫子に好みの女性の話を振ってくるものだから、それに合いそうな花弥に紹介状を持たせたら一目惚れしてしまった。



(めちゃくちゃ良い縁談だから良いのですけど、恥ずかしい…!)



顔を覆う花弥を愛しげに見つめた後、「そういえばカオルコの恋人、さっき絡まれてたけど」と思い出したようにルークが言った。



「そう。モテてしまうのよね、椿さんは」


「カオルコ以上になってから出直してくださいって言ってたよ。愛がすごいね」



しみじみと言われた言葉に頬を赤くする。そして、「やっぱり、椿さんに付き纏われるのは嫌だわ」と呟いた。



「薫さ……シルヴェールさん、和泉さんどうかなさいましたか?」



振り切ってきた椿が不思議そうな顔をすると、「友達を見かけたから声をかけただけさ」とウインクをする。



「そうですか。いつもお熱い様子で何よりですが、目立ってますよ。それ」


「カヤが取られるよりマシかなって。ほら私嫉妬深いから」


「いえ、学校では手を繋ぐとか腕を組む程度にしていただけた方が良いですわ」



花弥からの抗議に残念そうに地面に下ろす。

一方で椿は紗也を見てにっこり微笑んだ。後ろに黒いオーラが見える気がする。紗也には心なしか副音声で「何やってるんですか、役立たず」と聞こえる。



「そうだ。椿さん」


「なんですか?」



瞬時に蕩けるような笑顔に切り替わった彼に薫子は楽しそうに「私たちもあれくらいいちゃいちゃしたら余計な虫が集らないかしら」と名案とばかりに言った。



「俺は嬉しいのですが、邪魔が非常に多く入るかと思います」


「そう…」



じゃあ仕方ないと薫子は紗也に向き直る。



「今までありがとう。もう良いわ。けれど、あなたはもうこちら側だと認識されていることは忘れてはダメよ?」



薫子の言葉は単純な労いと、忠告であったが、その言葉に紗也の脳裏にひとつの可能性が過ぎる。



(いや、まって。私これ今後も止める活動自体は続けないと庇護下から外れたと見なされてヤバいことにならない?)


「あと、そうね。四季神さんは何をなさるかわからないから、できるだけ私と仲がいい子と一緒にいた方がよろしいわ」



最近も、会社のPCに不正アクセスの形跡があったり、買収されて不正を作ろうとした社員が出たりしていた。自分達がやっただなんて彼らはもちろん言わないけれど、調べるとその影がちらついたりする。

薫子も最近ではこちらから手足を叩き切った方が被害が少ないかしら、などと悩んでいる。

しかし、それはそれで薫子が自ら出向いてやらなければいけないことも多く、危険だと見做されて家からの許可が出る可能性は少ない。

どうしよう、と思案した。


なお、紗也は結局「こっちは春宮のバックアップ受けてるんだから!!」と若干ヤケクソ気味にやり返した。失敗したらそれまでの四季神と違って、椿たちに手を出さなければ薫子は意外と懐が深い。

問題児たちを片付けて彼女は今も大人からの評価を爆上げし続けている。

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