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「何なのよ、これ」
調査結果を見ながらワナワナと震える。
あの根暗キャラがキラキラモデルになっているだなんて誰が想像できると言うのだろう。しかも、本人は「女の子にちやほやされるのが楽しくて〜」とかインタビューで答えている。イメチェンで済むような変化ではない。
秋月朔夜は白桜会という以外ではあまり薫子とは関わりがないようだった。しかし、これだけキャラが変わっているのならば、ゲームの知識は役に立たない。
夏目諒太は黒崎家の長女と婚約をしていた。
大人しめの可愛い系。胸が目立つ。
巨乳お嬢様とか、漫画にしかいないだろう、と思いながら諒太の攻略記録を途中まで読んで、やめた。
「これを隠してないってことは、確実に囲い込みにかかっているってことでいいのよね?」
自分ってヒロインのはずよね?
そう問いながら雪哉のページを見ると、薫子ガチ勢だった。もうどうにでもしてくれ。
縁談も全部断っており、「結婚する気はないから、養子でも取ればいいんじゃないか」と最近では言っているらしい。薫子が手に入らないなら女は要らないと言っている情報が出た瞬間、舞香は引いた。落とせるというか、引き取ってもらえる可能性はあるが、そうなった場合の理由はきっと「薫子に何かしないかを見張るため」に違いない。
椿に関してはもうお察しだった。
ストーカーじゃねぇか、趣味悪いな悪役令嬢と舞香はドン引きしていた。そんな椿を追いかけ回していた小学生時代を黒く塗り潰したい。
「というか、よく椿の部屋の中まで写真撮れたわね」
一面を薫子の写真で埋め尽くした部屋は絶対に異常である。薫子が来る時は別の部屋をダミーで使っているあたり確信犯だ。
部屋の中まで写真が撮れたのなんて、大概がそれを見ると戦意を失うという理由もある。
そこまで舞香が気づいた訳ではないけれど、円が吹き込んだ悪意がぶっ飛ぶような部屋を見せつけられて「あー」とか「うー」という妙な唸り声をあげる。
「ヒロインって、ちやほやされるもんじゃないの?」
何だったの、私の苦労は。
そう呟きながらソファに体を沈める。
母が逃げず有栖川で育てられていれば、もう少し明るく元気に…あるいは奔放にもなっていただろうが、舞香は「良い家に絶対に嫁ぎなさい。それがおまえの存在価値だよ」と養父にガッチガチに教育されて今に至っている。攻略もやりやすくなるはず、とガッツポーズ決めて頑張ってきたらこれである。しかも報告を見ている限り、薫子は特に何もしていない。ただ、我が儘を言わなかっただけだ。
とんでもない悪女だと聞かされていた舞香は資料を頭上に翳し、それから苛立つ顔を隠すように資料で覆う。
「円様には騙されてたってこと?」
「そうやねぇ」
資料で顔を覆っていた舞香に頭上から声がかかる。
そっと資料をずらすと、ニンマリと笑った義兄がいた。
「もっと察しが悪い子やとばっかり思てたけど、意外に気付くん早かったね?」
「ちゃんと制服を着たらどうですか?お義兄様」
「堅苦しいやん。あんまりかっちりしたん苦手やねんなぁ、俺」
着崩した制服は似合っているし、色気が漂う。長めの赤い髪を緩く結んでいる義兄は大層な色男と言ってもいいだろう。
「なぁ。それでも円クンがええんか?」
「それは……」
たとえ囁く優しい言葉が嘘だとしても、舞香は推し…いや、四季神円という男に恋をしていた。
それを見ながら、彼女の義兄は「やっぱり趣味悪いわぁ」と笑った。
「朱夏さんにはなるべく迷惑をかけないようにします」
「円クンと関わる以上、それは無理やろ」
けれど、舞香が四季神円を追いかける以上、“彼女”が自分を利用できると踏んでくれる可能性は大きい。
無邪気に笑う、薫子の一番側にいる少女。
柏木諾子は愛らしい少女だった。
大きな目に程よく筋肉のついた身体の笑顔がよく似合う女の子だ。欲しいと言っても「嫌よ」と薫子に断られていた。まだ婚約者もいないのだからお付き合いくらい、と思うが思ったより薫子のガードが堅い。諾子ではなく、薫子が厳しい。
(まぁ、その辺りはゆっくり考えよ)
すでに色んな人間の思惑が混ざり合っていた。
朱夏も協力するよ〜と寄ってきて薫子の地雷踏んでる。多分高校編舞香は不憫。




