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悪役だから派手な色とか似合うなぁ、とのんびり構えていた薫子だけれど椿的にはそうでもないようだ。選ぶ服を見ているとどうも薫子に清楚さを見出している。特に困ることはないのでそのまま椿が選んだ服を購入している。
年末年始は相変わらずご挨拶で飛び回らなくてはいけないようで、そこは少しウンザリしてしまう。けれど、その分以上に幸せな生活をできているのだからと相手によって話す内容や出してはいけない話題を頭に入れておく。
「薫子様」
固い声で呼ばれて、「どうぞ」と応えると気の強そうな巻き髪の少女が品良く襖を開ける。動作に育ちが出るというのはこういうことだろう、と薫子も納得してしまうくらいだ。
「和泉でございます。御用と伺い参上いたしました」
「いらっしゃい、花弥さん」
直接呼ばれるのは四年生の時のクラス替え以来だ、と花弥は笑顔の薫子を見ながら考える。雪がちらついていることもあってか、部屋の中に誘われて入った。
整頓された机の上には資料が重なっている。
「そんなに固くならなくてもいいのに」
「いえ、薫子様は私たちの上に立つ方ですので」
その言葉に思わず苦笑する。一年生の時に葉月を、その後にあかりたちを友人として引き入れられたのは幸運だっただろう。どうしても春宮が関わる人間はこうなる。将来のためにと上下関係を叩き込まれている。
とはいえ、あかりたちもその辺りに関しては多少気にしている部分が見受けられた。それを少しだけ寂しく思うのは贅沢な話かもしれない、と思考を放棄した。
「そう」
仕方がないと諦めてそれを口にした。
そして、本来の目的である相談をすると彼女は顔色を変えた。赤くなったり青くなったりと忙しいなぁ、とのんびり考えていると彼女は「努力致します」と頭を下げた。
「無理はしなくていいわ。もしそうなれば後が楽だというだけだし」
強制をするつもりはないのだと告げて、一応とその件に関わる資料を手渡す。
そして、出て行く彼女の背中を見送ってから深く息を吐いた。海外に出る人間の中で最も適任の少女を選んだのだからあとは見守るしかないだろう。
薫子は自分を守ってくれる人間たちを信用していないわけではなかったが、それはそれとして四季神が裏からかけてくるちょっかいが非常に鬱陶しいし、行く先々に現れるのが気持ち悪いので心の底からなんとかしたかった。
椿も大概だが、薫子も自分から幼馴染を引き離そうとする人間は好きではない。六年生に上がって向こうが中等部に入ったので多少マシになっていたが、春からはまた同じ校舎になってしまう。
「いけないわねぇ」
焦っては碌なことがない、と苦笑すると清子が椿の来訪を知らせてきた。
驚いて髪を触りながら、「おかしな格好はしていないかしら?」と慌てていると微笑ましそうな顔をするので頬を膨らませた。
「私は真面目なのよ?」
「ええ、ええ。清子はそれが嬉しゅうございますの。お嬢様」
そう言って彼女は穏やかに笑った。それに毒気を抜かれたのか薫子は気まずそうに顔を背けた。
「ほら、お嬢様。可愛いお洋服ですけれど少々寒そうです。上に羽織るものを用意致しましょうね」
薫子はそれに素直に従って、それから以前椿に贈られた髪留めをつけてそわそわしながら応接間へと向かった。




