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伝統的な家屋が立ち並び、土産物を売っているところも散見する。レンタル着物屋も近くにあるので、着物を着た生徒もいた。
自由時間でも基本は班行動であるが、椿がせっせと薫子についてきているのでニ班一緒に観光している。葉月の隣に陣取った諒太もどこか嬉しそうである。
約束通りに並んで写真を撮ったりもしながら、お土産を吟味する。
薫子は色鮮やかな手ぬぐいや風呂敷、ハンカチを見ながらどの柄にしようかと悩んでいた。
「御当主様たちに、ですか?」
「ええ。どれもとても綺麗だから目移りしてしまうわ」
困ったように微笑む薫子をうっとりと眺める椿。内心では「あなたが一番綺麗ですよ」と叫んでいる。相変わらず内面がなかなか外に出ない少年だった。
「たしかにお母様にこういうのいいかも」
薫子に気をつかってか、梓が小声で呟くとあかりも同意しようとして、しかし降ってきた声は「へぇ、女の子ってこういうのが喜ぶんだ?」という八雲の声だった。
驚いて三人で彼を凝視する。
「八重垣くんのがこういうの詳しいんじゃない?」
「いや、俺は全然。妙なとこばっかり父さんに似て女心がわからないってよく言われるよ」
そう言って梓を覗き込んだ。
悪戯っぽい笑顔に「何を企んでいる…!?」という気持ちでいっぱいになる。彼女は普通にバリバリ警戒していた。
そんな彼女を見ながら、八雲は「このくらい警戒心ないとね」と思っていた。警戒心なく近づかれてボロボロになっていく人間を見たことが数度あるだけに、すぐに心を開かない人間というだけで多少好感度が上がった。梓からの好感度は駄々下がりである。
「あずちゃん、逃げれるかな」
バリバリ警戒している梓を見たあかりの心配そうな声。静香はそれを聞きながら「最悪薫子様に言いつけよう」と言った。
梓が一番避けたい選択を、彼女を心配するあまり取ろうとしていた。
言いつけたところで、薫子から八雲に対してひどく現実的なお説教と「人の嫌がることをするんじゃありません」とめっ、されるだけである。一回で済めば過剰戦力でぶん殴るような真似はされない。一回で済めば。
「八雲も結構押しが強そう」
嫌そうな梓の助けに入れば、余計に面倒が彼女を襲うということを分かっているので手出しができないまま朔夜は遠い目で呟いた。かといって介入可能な薫子はただいま椿が独占中だ。椿の邪魔なんてする方がやばい。今良い感じの雰囲気でお土産を見ている彼らはカップルに見える。
視線を移すと楽しそうに笑いあう諒太と葉月。
「諒太、八雲どうにかなんない?」
尋ねると少しだけ八雲と梓を見つめて、一つ頷いた。
「八重垣、あんまりやると好感度が下がっていく一方だよ」
あまりにも遠慮のない一言に八雲はうっと詰まった。