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八雲はこっそり、椿を呼び出した。幼馴染関連のお使いである。
あわよくば子供同士で結婚させようと狙っている両親たちに二人で遠い目をしながら、けれど仲がいい十六夜家の長女に「椿様を薫子様に告白させる感じでけしかけたりできる?」と頼まれた。できるわけねーだろ、と即答したものの、現状の薫子と椿のスレ違いを知った彼は溜息を吐いて椿と話をするということで手を打った。
「何ですか」
「いや、お前のお嬢様の話なんだけど」
薫子のことだと分かった瞬間、目の色を変える。
話を聞く気はあるようだと察した彼は、薫子の周囲に大人の護衛がついていることも踏まえてしっかりとお前らすれ違ってんぞ、ということを懇切丁寧に説明した。
「薫さん、俺が許婚だと知っていたんですか?その上で、あんな……!?」
「理由は、本当にそういう意味で好かれているのか分からなかったから、だそうだぞ」
「こんなに思っているのに…」
八雲もそうは思うけれど、ここはしっかりと擁護しておかないといけないだろうと「口に出さないと伝わらない思いもあるんだ」と肩を叩いた。
その上で彼は自らの平穏のために薫子だって憎からず思ってるからアピってきたんじゃないか、とか。
ふとした時にキュンとしてるかも、とか。
告白をきっかけにより仲が深まるかも、とか吹き込んだ。
こんな厄介な奴に積極的に関わりたくないのでサクッと解決してしまおうという魂胆である。
その一方で椿は、ライバル的な立ち位置ではなく、単純な好意でアドバイスされていると受け取ってそんな人間もいるものなのだと感心していた。ここでもすれ違いが起こっている。
あの椿にそう思わせるほど彼の説得には熱が籠っていた。たとえ内心が「さっさと面倒片付けちゃお!」といったものでも。ある意味政治家の血が成せた技かもしれない。演説が上手い。
結果として椿に告白を決意させた八雲は「いい仕事をした」と清々しい笑顔を見せた。
そんな彼を遠目で見た梓は「あれ絶対面倒回避だな」と確信を持ちつつ、知らないふりをすることにした。世の中には知らない方がいい事というのは意外と多いのだ、と言い聞かせて。
そして、唆された椿は鬼気迫る顔でプランを練っていた。薫子に関することには常に全力投球の彼は絶対に薫子へ一発で気持ちが伝わるように告白をして見せると意気込んでいた。
「椿さん、珍しく何か怖い顔をしていたけれど、どうしたのかしら」
心配する薫子に梓はにっこり笑って、「薫子様にサプライズをしたい、と耳に挟みましたよ」と伝えておいた。
告白の内容を考えるのに必死なんて、流石に可哀想すぎて言えない。
「そうなの?ふふ、そうなら楽しみにしておかないといけないかしら」
ほっとしたような顔でそう言った薫子を見ながら、梓はそっと「良いアシストしたな、私!」と自画自賛した。
後で八雲にこそっとお礼を言われたけど分からないふりをしておいた。分からない方がいいことってあるんだって言ってるでしょーが、と心の中で叫びながら。




