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修学旅行で京都へと降り立った白峰学園初等部の一同は神社や仏閣を巡っていた。
ガイドを務める女性の話は小学校で習う歴史などと絡めてのものが多くて楽しい。
楽しそうにはしゃぐ薫子たちを遠目に見ながら、雪哉は周囲を彷徨く女子生徒たちに「邪魔だ」と告げる。瞬間、青い顔で離れた彼女たちに鼻を鳴らした。
不機嫌に見える彼に、清一郎は「だいぶ素直に離れるようになったな」と言う。
「家の事業も絡めて脅しをかけてるからな。父さん曰く、我が子の躾も満足にできない人間の会社などたかがしれている…という事らしいぞ」
実は菊乃よりも彼の父の方が過激だと知っているのは雪哉と仲の良い彼らくらいなものだろう。
おかげでゆっくりと観光できるのだからと彼らはそこまで気にしてはいない。
「ねぇねぇ!木刀って買ってもいいんだっけ!?」
雅也がきらきらした瞳で拓人に問うと、「ダメなやつだよ」とそちらを見ずに拓人は他の商品を見ていた。
そんな二人を見ながら雪哉は「俺の友人もそこそこ自由だよなぁ」なんて思っている。
そもそも、土産物は旅行前にカタログが渡されていて、旅行が終わって数日後に一括で発送される。進んで買いに行かなくても問題はない。
不思議そうな顔をする雪哉を見て清一郎は苦笑した。
「実際に現地で見て買うのとカタログで選ぶのでは思い入れが違うだろう?」
「なるほど。旅の思い出としてということか」
そういうことならこういうのが売れるのもわかる、とちょっとカッコいい感じの龍とか剣のキーホルダーを手に取る。
「それで、これは京都と関係はあるのか?」
「特にないんじゃないか?」
一緒に首を傾げる清一郎。
雪哉の周囲もそれなりに騒がしく、平和だった。
「ゆきりんもなかなか天然だよねぇ」
諾子が呟くと、その隣にいた女子たちは苦笑した。
何故かゲーム通りに「氷の皇帝」なんて言われ始めた冬河家の長男にそんなことを言えるのは薫子含めたその周囲の一握りのみである。そっと、薫子の方へ誘導すると諾子はお礼を言って微笑んだ。
諾子の同じ班の生徒は春宮家の息のかかった家の子女である。将来的には薫子の側近、もしくは伴侶となる椿の関係者に嫁ぐであろう面々だ。そのように言い聞かされて育てられているが故に浮かれて突撃するようなことはしていない。
「むしろ狙い目は冬河様でなく、そのご友人ですわよねぇ」
気の強そうな巻髪の女の子がそう言うと、他の二人も頷いた。
「親からもそこまで反対されるような方々ではないし、薫子様のお役にも立てるでしょうし」
「アタシはあそこまでガッツないなぁ」
「まぁ、妙なことをしなければ将来困ったことにはならないでしょう。お兄様も、お嬢様はご家族や諾子様と椿様に悪意ありと見做されない限りは基本温和と言っておりましたし」
三人はそんなことを言いながら諾子に着いていった。




