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夏に花の会の季節が近づく。
今年も気合の入りまくったドレス選び。
「椿さんはどちらがいいと思う?」
祖母のおすすめを二着持って問うと、「右の白い方が良いです」と珍しく自己主張をしてきた。いつもなら「どちらもお似合いですよ」なんて言う。
清子に椿の選んだドレスを手渡しながら、不思議そうに椿を見ていると、苦笑した。
「そのドレスを着たあなたの手を引きたい、そう思いました」
椿の第二目標は薫子との結婚である。白いマキシワンピースはなんとなくそれを思い起こさせた。
もう片方の黒いドレスも非常に似合うと思うが、彼女が着ると色気が勝ってしまう気がする。
しっかりと小物でお揃い感を出そうと彼女のアイテム選びまでしっかりと付き合う。桃子はそれを見ながら独占欲の強い子だとしみじみと考えていた。
「薫ちゃんが白なら私は黒にしよっかなー!!」
「私はこちらの色が良いと思うわ。お花の柄の」
「薫ちゃんが言うなら!!」
秒で意見を変える娘に柏木夫妻は頭を抱えた。実際、薫子の指定したものの方が似合っている。けれど、ここまで薫子の意見に左右されて良いものか、と思うこともやはりある。とはいえ基本的に薫子は諾子に何かを強いたりということはない。むしろ甘やかされ過ぎているのではと思うくらいだ。
「柏木!!俺の靴片方隠したな!?」
ガラリと襖が音を立てる。
たまたま両親が元正に会いにきていたため着いてきていた兎月は大人しく両親の後ろにいたが、帰ろうと思ったら靴がなかった。
「この屋敷の中にはあります!!」
元気よく犯行声明を出した諾子に「まぁ、悪戯はダメよ」と薫子は困ったように笑った。
「えー。でも、せっかく来たのに薫ちゃんに挨拶なしってさー」
「薫子に挨拶して帰らなきゃいけない決まりになってるのか?」
「薫子さん目当てでなければ俺は別に構いませんが」
薫子に髪飾りを当てながらそう言う椿に思いっきり溜息を吐く。
それを大人しく見ている諾子の表情に目を止めて、近くにあった髪飾りを手に取った。
「何」
「うん」
そっと髪に翳して「可愛いんじゃないか?」と言って綻ぶように笑顔を見せる。
その瞳が一瞬、諾子の一番好きな彼女と重なって見える。
「そう」
兎月からそれを受け取って、彼女は微笑んだ。「自分」に向けた笑みに、彼は胸の奥の感情に気づく。
(……外堀だけは埋めながら待つか)
熱を孕んだ目が、諾子を見つめる。
それはそれとして。
「とりあえず俺の靴返せよな。ほら、行くぞ」
悪戯は悪戯でしっかり怒っておこう。
そう思った彼は諾子の腕を掴んで口角を上げた。両親も「返してきなさい」と送り出した。
あけましておめでとうございます。
今年もどうかよろしくお願いします。
これ書くの他のより時間かかっている自覚があるので毎日更新は出来ないかもしれませんが、今年も頑張って書きたいと思いますのでどうかお付き合いください。




