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三日目、最終日。
朝から荷物の片付けと掃除をする。
基本的にはあまり触らない方がいいのかもしれないが、そこまでが学習の一部であるらしい。
片付けて手荷物以外をバスに放り込み、ホテルを後にした。
そして、ハイキングに向かう。
そんなに高くない山を景色を眺めながらゆっくり登って、お昼ご飯を山頂で食べよう、という形である。
葉月と手を繋いでゆっくり歩く薫子の後ろを三人娘は歩く。なお、薫子の前には椿たちのグループが歩いている。時折、気遣うように振り向く椿と諒太に「後ろ見過ぎー」と朔夜の声がかかる。
「椿さん、あまり後ろを向くのは危ないわ。お顔を見られるのは嬉しいけれど」
「うん。夏目くんたちが怪我するのは嫌だな」
二人の声に渋々前を向く。
朔夜は「僕の言うことも聞いてよー!」と不満気である。それを見ながらあかりと静香は尊いと手を合わせていた。梓は「あなたたち…」と苦笑気味である。
「薫子様と葉月様のカプは鉄壁」
「諒朔は幼馴染神カプ」
「実在の人物に配慮してそういうのは家でやりなさい」
なお、あかりは「薫子様と諾子様は神カプ」とも言っていたりする。
「バレたら椿様に何されるかわかったものじゃないしね」
気合いを入れ直さないと、と静香が頬を叩いた。梓は完全に二次元じゃないとダメなタイプだけれど、友人二人は違った上に別方向に拗らせている。どこをどうして同性同士の恋愛を尊いとか言い出したのだろう、と少し考えてあかりに関しては去年薫子と諾子が同じクラスだったという事を思い出した。迸るパッションのまま、二人の距離感とかを語ってくるあかりは正直怖かった。たしかに、薫子と諾子は距離感が近すぎるが。
静香に関してはもっとわからない。ある日いきなり「沼に落ちた」と真顔で漫画を書き始めた。
そんな後ろの空気を他所に、キャッキャとお話しながら少しずつ進んでいく薫子たち。
お昼くらいになって頂上へついた彼女たちはお弁当を教師から受け取って、レジャーシートを広げる。
テキパキと薫子の周囲を整える椿は「過保護!本人にもやらせろ!」と兎月に引き剥がされていた。
「お前も、ボーッとすんな」
「たしかに」
こくりと頷く薫子だったが、レジャーシートを地面に置くと同時に強めに風が吹いて、レジャーシートは飛んでいく。薫子はちょくちょくこういうところがあった。
「薫子、たまに鈍臭いな」
兎月がつぶやいた。
普段はそう思わないけど、たまにこういうことになる。基本不運属性なのだろう。
走って追いかける薫子を椿も一緒に追いかけた。
「ごめんなさいね」
「いいえ。俺を止めた兎月が悪いので」
「ダメよ、兎月さんの所為にしては。どう考えても私が悪いでしょう?」
めっという顔をする薫子に椿はそれでも楽しそうに笑っている。隣に薫子がいれば何でも良いらしい。




