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転生悪役お嬢様は諦めている  作者: 雪菊


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林間学校と聞いていたので、薫子は最初飯盒炊爨(はんごうすいさん)とかカレーとかを作るのかと思っていたけれど、待っていたのは自然の中で遊びつつ身体的な能力を伸ばす事とか、外での物作りだった。「キャンプファイヤーとかないのね」と思っているが、昨年度の生徒がキャンプファイヤーの火に近づいてマシュマロを焼こうとし、負傷者が出たことが原因である。

とても体積の大きな少年でテコでも動かず、そうこうしているうちに振り払われた職員がぶつかって倒れたことで阿鼻叫喚の図が広がった。なお、幸いといっていいものかはわからないが、負傷者は少年とぶつかった職員だけだった。



「次の年からはやめよう」



職員の総意でそうなった。飯盒炊爨でもその少年は色々やらかしていたらしく、それがなくなったのも今年度からである。知らないところでとばっちりを受けていた。


そんなこととは知らないまま、彼女は陶芸コーナーでろくろを回していた。

祖父に湯呑みをプレゼントするために真剣な表情である。その隣で椿も父親に渡すという名目で黙々とろくろを回している。他の体験学習であれば話す機会があったかもしれないが、これだけ集中している薫子に話しかけると嫌われるかもと遠巻きに見られている。


慎重に形作られていく目の前のそれを固唾を呑んで見守る体験学習の教師。

すっと止まって、薫子がろくろから作品を取り外した時には拍手が起きた。制作が初めての作品というレベルではないそれに「極めてみませんか!?」と熱烈オファーされる。



「そこまで美術系に自信がないのよね……」



ホテルに戻るまでの道でそう言う薫子の言葉を否定できず、椿は曖昧に笑みをつくった。戦略的撤退というものである。薫子に絵は鬼門だ。風景画も動物画も肖像画も全部どことなくヤバいものになる。父親の才能を全く受け継がなかった。絵を入れなければいいのだと言う人間はこの場にはいなかった。


前日と同じように入浴、夕食を取って就寝になる。


その頃、椿は数名の男子生徒に絡まれていた。

曰く、「春宮様を解放してあげろ」である。薫子の元に行っている女子の逆パターンがこちらにも来ていた。非常に迷惑である。



「春宮様にはな、四季神様がいるんだよ!」


「春宮では嫌厭されていますけどね」



常識的に考えて娘と孫の関係性含めて嫁がせたいと思う保護者はそう多くないだろう。椿はそのあたり、四季神の名を使うやつは頭が悪いのではないかと思っている。

椿の本当の意味での春宮の総意にそんなわけがないだろう、と嫌らしい顔で嗤う。



「それで、解放ですか?そんな事を言ったと知られれば株が落ちるのはあなた方かと思いますが」



事実、薫子の交友関係は椿と諾子を排除しない者だけが残っている。薫子は椿や諾子を他の人間よりも遥かに大切にしている。それを引き離そうとするならば相応のリスクを覚悟しなければならないだろう。



「離れないというなら、離れたくさせてやるだけだ」



そう言った彼に椿は背を向ける。

だって、彼には相手をしてやる義理はない。


声を荒げて乱暴に椿を引き止めようとした彼の背が叩かれる。一人の男性教師がにこりと笑って引き留めていた。

目立つところで呼び出しなんてしたら教師に目をつけられるに決まっているだろうに、と部屋に帰りながら溜息を吐く。


そして、彼には今後何があったって薫子を手放す気なんてない。



「椿、喧嘩してたってマジ?」


「喧嘩にはなっていませんが」



相手の自滅にはなった。

その言葉に「殴り合いとかになると痛いからねぇ」と朔夜がしみじみと言っている。



「殴られるタイプじゃないだろ、コイツ」



そう言いながら、八雲はトランプを出して「革命!」と告げた。兎月がそれに頷きながら、「保険を用意した上で回避して報復もするタイプだろ」と言って彼もまた4枚のカードを出した。



「革命返し」



げっという顔をしながら八雲は項垂れ、諒太はしれっと上がっていた。

見回りに来た教師に止められるまで四人でトランプをしていたが、就寝時間を過ぎたので普通に怒られた。

なお、椿だけは先にさっさと就寝していて怒られなかった。

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