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二日目。
朝からアスレチックでの活動となっている。自然を利用したそれは安全に楽しく、運動能力を高めようという意図で造られている。
ひょいひょい、と限られた足場で沼の先へと辿り着いた薫子は最後の着地でバランスを崩す。すると、背中を引っ張られてなんとか体勢を戻した。
「最後まで気を抜くな」
「そうね。ありがとう、助かったわ」
兎月にお礼を言うと、後ろからついてきた諾子が「言い方感じ悪い!」と文句をつけているが「指を指すな」と呆れた顔をされた。
「…感じ悪いとはあんまり言われたことないけど、口うるさいとはよく言われた」
「そう?」
「え…、それはわかる」
何かを思い出すような兎月に向ける言葉に薫子は首を傾げ、諾子は頷いた。
諾子は薫子には甘やかされているが、椿は薫子以外に厳しいので割と口うるさく色んな事を言われていたりする。なので兎月は同じ枠組みに入れられている。薫子は彼女が大体何をやっても「あらあら、可愛い子」みたいな感じの反応なので周囲は頭を抱えている。
何でも許すんじゃありません、と言いたい反面、危ない事をしたら他の人の数倍怒るので何も言えなかったりする。
「手のかかるやつの側にばかりいるからかな…。俺も言いたくて言ってるわけじゃないんだけど」
舞香から手を引けたと思ったら、従姉妹が気が遠くなるくらい危なっかしい少女だった。その隣にいる少女はそれに輪をかけて危なっかしかった。
結果的に椿と協調してあれこれと働いている。目を離せないから頑張っているだけだと言い張っているが、椿には胡乱な目で見られている。「目的が違うようですので構いませんが」なんて彼は言っていたが、その言葉の意味はまだ兎月にはわからない。
悲鳴が聞こえて上を見ると、葉月は静香と一緒に綱に掴まって木と木の間を滑走していった。
対岸についてふらふらになっている。そんな葉月を静香が介抱しようとして、やめた。諒太が走り寄っていた。
「夏目って意外と運動できるよな」
「短距離走は椿より早いよ」
「…それ、本人には言ってやるなよ」
本人が聞いたら追い抜かすまで勝負を仕掛けそうである。
諾子は「アレにも少しくらい弱点あってもいいと思うんだけど」と不満気だ。
「おい、椿!うんていで勝負だ!!」
「嫌ですが」
「雪哉くん、そういうノリは体育祭まで取っておこー?」
素気無く断られているところを雅也にそう言って引っ張っていかれた雪哉は薫子たちを見つけて嬉しそうに走り寄ってきた。
そして椿がそれを見て早歩きで近づいてくる。
「どう見ても歩いているように見えるのに、どうして冬河くんよりも近付くスピードが速く見えるのかしら」
「あー…うん。薫ちゃんが見えたからだと思うよ」




