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学園に集合して各班で集まる。
薫子と同じクラスの葉月を含めた五人、その隣に椿と諒太、朔夜、兎月を含む五人組が立つ。
「巻き込まれた」
赤茶の髪の活発そうな少年が憂鬱そうにそう口に出すと、「ごめんね」と諒太が苦笑した。
女子人気が高い彼らは、友人ができにくかったりする。友人に好きな子ができる、そうしたら彼女が四人のいずれかに近づくために自分と仲良くなっただけだと知る、そして距離が開く。
そういうことを繰り返しているうちに同性の友人すら少なくなってきていた。すっかり孤立しつつある。
八重垣八雲はその中でも適当に友人関係を続けていた一人である。
「別に夏目に謝られることじゃねーけど。実際、このクラスの男共は去年だけで心がぽっきりでお前らのことが嫌いなわけじゃなくても近付くのきつそうだったし」
「深山グループが凶悪過ぎたな」
八雲はやれやれとその名前を言った朔夜をジト目で見ながら「それはお前狙い女子グループだろ」と言うと彼は目を逸らした。
「アレは、もう誰かがどうこうできるやつらじゃなかった」
逸らした彼の目は荒んでいたし、彼は胃のあたりを静かにさすっていた。血でも吐きそうな顔をしている。
「普通、僕に近付くために僕の友人を落とそうとか考えるもの?怖過ぎない?」
口に出したその言葉は少し震えている。
浅く、広く、人と付き合っている彼のただ1人になろうと躍起になってそういうことをする人間。そして、それを真似る人間も出てきて一時期エゲツない事態が起こっていた。
なお、そんな彼女たちの一部は椿に手を出そうとしたのと諾子に危害が行きそうだったために薫子にキレられて、こんこんとお説教をされている。その上で家に「どないしてくれとんねんワレ」という気持ちを超絶婉曲に、しかし苛立ちが伝わってくる絶妙な文章を家に頼んで送ってもらっている。反論をしてきた女生徒には正論パンチと共に彼女が親にバレるとヤバいであろう学園内における生活態度に関する報告書まで作成した。最近では紗也が頑張っているのも合わさって、彼女たちは悔しそうにはしながらも薫子の顔色を窺いつつ生活をしている。
薫子の顔色を窺っているだけで、行い自体はそこまで改善してはいないけれど。
「椿様と柏木さん以外になら何したってそこまで怒られないわ!」
既に少し離れたところで反省の色なく叫んでいるが、彼女たちは薫子がにこにこと害のなさそうな笑顔で会話の録音と誰が何を言っているかのチェックを結構な頻度で行っていることに気づいてはいない。
「薫子さん、よろしいのですか?」
「よろしくはないけれど…。彼女たちのためにもそろそろもう一度、釘を刺しておくべきかしら?」
困った顔で頬にそっと掌を添える。「紗也さんが頑張ってくれているけれど、まだ無駄にやる気がある子が多いわねぇ」とのんびりと口に出された言葉には棘がある。
「何したって」は流石にない。
そして、彼女の集めたデータや日頃の行いは必要とされている家や学院の教員に順次転送される。
(わぁ、私達大人しくってよかった!)
薫子・葉月と同じ班の三人娘は三人が三人ともそう思いながら手を合わせた。




