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5年生になると、林間学校がある。
5月に行われるため、学年が上がると同時に班を決められる。
とりわけ大きな力と影響力を持つ白桜会に力を集めないため、と彼らは学級委員や生徒会などに入ったりはしないが、5年生にもなると特権階級であるという意識も大きくなり、扱いにくい生徒も増えてくる。
幸いというか、薫子たちは比較的そういったタイプではなかったけれど、そうなると“他の生徒”が調子に乗って派閥を作り、騒ぎ出した。
止めて欲しいと薫子たちを見る人間もいるが、薫子は放置している。
なぜなら、彼らは薫子の友人達を助けてはくれなかったからだ。
獰猛と言っても差し支えない様子であった女の子に追われる彼らを助けたか。
意地悪を言われて悲しげに俯く彼らを助けたか。
具合を悪くして青い顔をする彼らを気遣ったか。
否である。
(まぁ、椿さんや諾子さんがどうしてもと言うのであれば動いても良いけれど)
肝心の椿や諾子は薫子に何かあることを非常に嫌がる。なので、結果として「放置」に落ち着いている。日和見のお姫様と揶揄する同級生もいるが、薫子が本気で怒った結果として家にどんな影響が与えられるか分かっている人間ほど口を噤む。
一方で、雪哉は友人の助けもあってか適度にクラス内では抑えつけができている。
それを見て横暴だと感じる者もいれば、頼りになると感じる者もいる。
「勝手だよな。正直俺も放っておきたい」
雪哉が周囲をコントロールする側に回っているのは友人のためもあるが、勝手をされる事で自分まで春宮達への害意を持っていると思われたくないがためだ。誰だって、巻き添えで家同士の争いに発展するのは嫌に決まっている。しかも、相手は淡い恋心を抱く少女である。
「まぁ、パワーバランス守るのも大事だからな」
清一郎はそう言うと頬杖をつく。すでに四人で班を作り、固まっている彼らは気楽に周囲を見渡した。
「柏木も動きなしってのが怖いよなぁ。あれ多分、ガチの見極め作業佳境ってカンジする」
「中等部になったら外部生も入ってくるしね。初等部からの生徒たちを今後春宮さんに近づけるかどうか」
拓人が「期限は来年までってところかな」と小さな声で呟く。雅人も「だよねぇ」と突っ伏した。
「春宮さんもお人好し、みたいな扱いされているけど、裏切りというか寝返りというか……ああいうのにすごいシビアだし、騎士様とか柏木居なくても普通に怖いんだが、わかんねー奴もいるんだな」
「待て、騎士様ってなんだ」
人名が出なかったそこに反応した雪哉に、雅人は「あれぇ?聞いたことなぁい?」と首を傾げてにっこりと笑った。
「椿くんだよ」
姫と騎士。
陰でそう呼ばれている二人。
常に薫子を守るように立つ椿を騎士と呼び、ある者は憧れて、またある者は憎々しく思う。
「じゃあ、王子役は俺か」
「いやぁ、今んとこは絶対違うと思うよ!」
キメ顔で王子役を名乗る雪哉は雅人に秒で否定された。ちょっとだけ悄気た。




