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しんしんと雪が降り積もる。
積もるのは珍しい、と薫子は目を細めた。
庭先が白く染まっていく様は美しい。
知らないうちに有栖川家は会社を畳み、父はバツ2になっており、姉が姉ではなかったことが発覚した。
(乙女ゲーの裏側って、汚いことばかりなのねぇ)
のんびりとそう考える。
郁人は離婚してからなぜか絵の賞を取ったり、その件で取材を受けたりしていた。テレビに映る父親の、宇宙を背景にした猫ちゃんみたいな顔を見ながら「その才能、私には受け継がれなかったのねぇ」としみじみと呟くと同時に清子がテレビのチャンネルを変えた。
「お嬢様にだって沢山の才能がお有りですよ」
賞状を両手に持って「意味わかんねー」みたいな顔をした父親の顔は新鮮だった。
だが、春宮家では有栖川関連は地雷原である。大人しく微笑みを浮かべるのみにする。
「そういえば、桜子は絵が好きだったな」
薫子とは別の部屋でそのニュースを見た元正がそう呟くと、桃子も頷いた。
桜子は基本的に派手なものが好きだったが、たとえその表現がどういったものであったとしても絵だけは別口で好きだった。モノクロでも、暗い色だけの絵でも。
「もったいない。才能の無駄遣い。それはこういうことだったか」
「言葉の足りない子だからきっとヒステリーだと思われていたでしょうね」
「今頃、自分の見る目は正しかったとか言って高笑いしていそうだ」
「あの子の行いはどこをどうとっても最悪ですけどね」
二人の溜息が重なる。
桜子のやり方が最悪すぎて筆を折っていたのに、「久しぶりに描くか」で賞を取れてしまう郁人も郁人である。そして徹夜でハイになって応募して「どうしてこうなった」している。
薫子が「綺麗なものだけ見て生きたいというのは我が儘なのよねぇ」と考えている頃、祖父母は「綺麗なものだけ見て生きたい」と良い笑顔で言っていた娘のことを思い出して、何度目かのため息を吐いていた。
全く似てないように見えて意外と似ているのかもしれなかった。
そして、ニュースを見た舞香たちは発狂し、桜子はテレビを指差して「何あの顔!!」と楽しそうに笑った。
今後有名になろうが、実績を作ろうがもう特定の相手を作る気がない郁人。賞金は二つに分けて貯金している。




