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郁人含めて有栖川周りは割と見渡す限り屑
舞香は突然連れてこられた家で不満げな顔をして座る。父親は穏やかな表情で出された茶に手も出さずに座っている。
オロオロとした様子の老夫婦はピリピリとした雰囲気だ。
突然、乱暴に扉が開かれて舞香の母、麻里香は姿を現した。
郁人を見て一瞬、鼻で笑う。
「もう離婚したのだし、他人がなんで親まで使って呼び出す権利があるの」
「まだ離婚していないよ。届けを出していないし」
「は?出しておいてよ」
「僕は、他人の子を育てる趣味はないから親権の部分を書き直してくれさえしたら直ぐに提出するよ」
郁人の名前が記載された新しい離婚届が机の上に出ると、麻里香は顔を真っ青にした。
「しっかり避妊はしていたはずだから、おかしいなとは思っていたんだ。けど、それだって失敗することもあるだろう、と君の言うことを信じた。その結果がこちら」
DNA鑑定の結果が数社分、取り出された。どれも結果は血縁関係は認められないというものだ。
「他人の子を押しつけて独身になるって、ちょっとどうかと思うよ?」と彼の浮かべた笑みはどこか薫子と重なる。怒った時の顔は目元が少し似ていることもあってか、どちらかと言うと郁人寄りだ。
「それがどうしたって言うのよ!」
「僕の子でないなら育てなくてもいいかなって。一応調停の準備はできているよ」
そう言って笑う郁人の様子に麻里香は目を見開く。この男は、自分に対してこんなに冷たかっただろうか。
実際に郁人は、舞香が自分の娘でなくても、もし麻里香が彼を見捨てたりしなければ一緒に育てただろうし、舞香一人でも好きだった女性の子供だ。その態度があんなものでなければこういった行動を起こさなかっただろう。
郁人にだって悪いところはたくさんあるが、だからといって理不尽を押し付けられたままでいる道理はない。
「こ、こんなのデタラメよ!私はパパの子なんだから!!」
「なんで今更嫌がるんだい?僕は役に立たないんだろう?」
心から不思議だというように言われた言葉に舞香はゾッとする。
「僕たちは互いに親には向いていなかったのかもしれないね」
しみじみとそう話す郁人の表情はやはり穏やかだ。
背負うものはもう何もないからこそなのかもしれない。
郁人は元々、コツコツと確実に努力を積み重ねるタイプだ。それは仕事や趣味、そしてこういった時の手続きなども同じ。
何事もなく押しつけて縁を切りたいのならむしろ彼と離れない方が良かった。一人で黙々と伝を使って情報を集め、整理する。そういう仕事は郁人の得意とするところだ。
助けを求めるように麻里香は自身の両親を見つめるけれど、彼らは郁人に深々と頭を下げていた。
「慰謝料も払います!申し訳なかった!!」
「いや、要らないです。早急に離縁だけ済めばそれで。僕も好きだった女性と一緒にいた日々はそう悪いものでもありませんでした」
救いはないと気付いて、麻里香は舞香を睨む。
「お前のせいで……!」
その様子を見た彼女の父は、「早く書け!」と書類を差し出した。
郁人が去ってもなお口論の声が響いた。
── 一方、別所。
桜子は報告を聞いて楽しそうに笑っていた。
「そうそう。こういうところが私を楽しませてくれるのよね、アイツ!!」
もう一回遊びたいわと嘯く妻に、環は「いい加減にしてくれ!」と怒鳴る。
「君は私の妻だ!!」
「それが?」
たまたま通りかかった円はそれを見ながら「修羅場だ」と呟いた。
ゲーム内では薫子と春宮の報復もあって一気に落ちぶれていた中で気持ちを確かめ合ったりもしていたけど、何にもしなかったので逆にギスギスするという「なぜ?」な展開に。
原因はほぼ舞香。舞香が大人しくゲーム内ヒロイン風に振る舞ってたらぽいされなかった。




