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面の皮が厚い父方の親族と自称姉
最近周囲がピリピリしていると気づいた薫子は、それが何故か分からなかったが、兎月に聞いたら答えてくれたので有栖川関連だと知った。
(お父様たちはどうでもいいのだけれど、その結果としてご迷惑をおかけするのは嫌ね)
思わず深い溜息が出る。
捨てたのならそのまま忘れてくれれば良いものを、何故か助けを求めてきていると聞いて呆れてしまう。いらないと切り捨てたものに縋る事を何とも思わないのだろうか。
薫子宛に何通か手紙も届いているが、それに彼女が目を通すことはない。
薫子の目に入り、助けて欲しいと懇願されれば聞いてしまいそうな人間が数人いることもあって厳重に管理されている。
薫子自身は全く助ける気がないのだが。おそらく、泣きついたとしても両親は自分を助けてくれなかっただろう。そう薫子が確信しているのも、割り切っている一因である。
(流石に、妹なのだから助けろと学園に突撃してきているのは知らなかったわねぇ)
周囲、特に椿が必死に隠していたが情報を完全にシャットアウトする事などできない。薫子にだってそれなりに“親切なお友達”がいるのだ。
「助けろ、ねぇ。私が同じ立場なら彼女は嗤って指を差しただろうけれど」
ふふ、と笑って“親切なお友達”が渡してきた手紙を眺める。
特に手を出すつもりはない。だって、今でも彼らに興味を持っていると思われたくない。
薫子の世界には春宮で与えられるものだけでいい。将来的にはそれではいけないのだろうけれど、少なくとも有栖川と関わりあうのが祖父母や幼馴染にとって良いことだとは思えない。
「薫子お嬢様」
手紙を見ながら笑い声を漏らした薫子の表情がどこか桜子と似ていて、清子は様子を窺うように声をかける。
「清子さん。これをおじいさまに渡しておいていただけますか?いくら私でも、もう関わりたくないわ」
薫子から手紙を受け取った清子は、それを持って元正の元へと向かった。
手を洗ってお茶を淹れ、七草堂のお饅頭をいそいそと用意し、「嫌なことは忘れましょう」とそっと手を合わせると、元正がガチギレしている声が聞こえた。
「やっぱり怒ってもいい案件だったのねぇ」
私ちゃんと怒れるようになった!とばかりに頷いた薫子はお饅頭を口に入れて微笑んだ。
“親切なお友達”は後日真っ青な顔で土下座してきた。




