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何かがおかしい。見落としがありそうだ。
そう思いながら椿はじっと本家のお嬢様である薫子を見つめる。その視線に気付いた薫子はそれが椿であると分かると安心して微笑みながら手を振ってきた。
そんな彼女を可愛いとときめきながら手を振りかえして、やはり気のせいかと考える。
チェック柄のフェミニンなワンピースを着た薫子は手を振りかえしてきた椿の元へと小走りで近づいた。
「薫さん、転けるのが心配ですので急がなくても大丈夫ですよ。椿はあなたのお側におります」
そう言って手を差し出す椿に躊躇いなく自分の手を伸ばして、薫子は「だって、椿さんの姿が見えたのだもの」とぷいと顔を背けた。
「最近、あまり本家には来ないでしょう?私もお稽古事がたくさんあるから人の事を言えないけれど、少し寂しいわね」
年齢が上がってくると、どうしても性別で近づく距離が変わってくる。護衛代わりにもなるように武術は習っているがそれをやくだてる時はまだだろう。
政略結婚で誰かを迎え入れる可能性もあるのだから、あまり一人と距離が近いというのもどうか。椿の両親も最近ではそう考えて本家へと向かわせる頻度を減らしている。
(早く大人になりたい)
椿はそっと目を細めた。
薫子を攫えるくらい、自分に力が欲しい。
奇しくも、距離が開いたことで薫子がどこかおかしいことは理解した。けれど椿はそれでも彼女が欲しかった。
椿は薫子を諦めない。
薫子の幸せも諦めない。
「椿さん?」
「薫さん、そういえばもうすぐお誕生日ですね」
「あら、本当ね」
忘れていた、と目をぱちぱちと瞬かせる。
椿や諾子の誕生日は忘れなくても自分の誕生日のことはあまり考えない。
「何か欲しいものはありますか?」
そう問うと、薫子は困ったように笑った。
ああ、これだ。
そう椿は内心で呟いて、薫子の手をギュッと握った。
「無くても良いです。俺が、あなたに贈りたいものを贈ります」
椿がそう宣言すると、薫子はきょとんとして、それから嬉しそうに笑った。
一応、今のところ誕生日は
薫子 5月
諾子 5月
椿 1月
で大雑把に考えてます。




