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「鬱陶しい」
「いやわかる。経験はないけどアレはちょっと」
「あいつらの好きって押し付けなんだよなぁ。マジでないわ」
「全部報告して無理な女子リスト化しとこう」
雪哉の一言に続く疲れたような言葉は、彼の友人たちのものである。流石に嫌がる友人を火中に置いておけないと感じた三人は雪哉を隠したり、突撃を受けないように内側に彼を置いて囲むように話したりしていた。だが、一部それでも突撃してくる人間もいる。四年生にして彼らは思った。「女って怖い」と。
「ホント、牛かよ」
「そういうこと言うとまた物投げられるぞ」
「知性がねぇのかよ」
「すまん」
限界だと言うように文句を言う紺色の髪の少年に雪哉は申し訳なさそうな顔をしながら、一言謝る。「別に冬河のせいじゃない」と言いながらそっと獲物を見るような目でこちらを窺う人間に目をやると、深く溜息を吐いた。
「冬河のせいじゃないし、お前のこと友人だと思ってるけど、白峰学園に通ってる以上、俺たちもそこそこの家柄だと察せられないやつやばいからマジで情報は共有しといた方がいいと思う」
その少年、天海清一郎はそう言いながら名簿を取り出した。
「別のクラスの女子も見といた方がいいっしょ」
橙色の髪に亜麻色の瞳の少年、結城雅也は薫子たちのクラスの名簿を机の上に乗せた。
「さっくんに借りてきた。さっくんも内心嫌がってるからさぁ」
“さっくん”とは秋月朔夜のことである。雅也にとって朔夜は前年までのクラスメイトかつ友人である。あの絶世の美少年スマイルの内側で大変ご立腹なのを知っているからこそ、できれば何とかしてやりたいと思っている。諒太のように安全基地にはなれないが、自分だからこそできることがあるだろう、と考えつつ笑みを作る。
「そろそろ同格にすら相手にされなくなる態度を取っているって自覚をさせてあげないとね?」
深緑の髪の少年は眼鏡を軽く上げて優しく微笑んだ。それを見ながら雪哉は(こういうやつが一番怖いんだよなぁ)と苦笑した。
森川拓人は赤いペンをくるくると回しながら雪哉に「冬河から厳重注意出してもらうのが良いと思うんだ」と言うと、雪哉は頷いた。
「俺は名前を覚えてないやつもいるんだが」
「大丈夫。僕たちが恨みと一緒に覚えているから」
優しげな笑顔と共に吐き出されるその言葉に頼もしい友人だ、と雪哉は礼を伝えながら思った。
清一郎と雅也は「黒いオーラ出てんな、森川」と思いながら見ているのを雪哉は気が付かなかった。雪哉はちょっぴり天然気味だった。
この後、それは本当にリスト化されてそのうち兎月が友人伝にもらったそれが薫子に渡ると「諾子さんに何かあってからだと遅いわ。男子バージョンも作りましょう」と言い出した。
「私より薫ちゃんのがやばいって……本当にヤバいんだって……」
「薫さん、基本的に自分より諾子さんのことを大切にしていますからね」
椿がしみじみとそう言った言葉に諾子も頷く。自分より、というかは自分のことは一番どうでもいいと思っているあたり、薫子は周囲に大切にされている自覚が出てきてもなお変わらなかった。




