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2年生になっても習い事なんかをしながら学校生活を送っていたらあっという間に夏が近づいてくる。
去年と同じようにパーティードレスやらアクセサリーを祖父母が選定したり、今年はもう少し浴衣を着せたいという祖母の意向から浴衣も数着購入したりしている。椿、諾子とも意匠を合わせたものもドレスなどでいくつかある。
薫子は2年生になってから茶道、華道なども習い始めた。
同じ教室に別の学校に通っている鈴宮楓という少女がいてその子とも仲良くなった。
そのきっかけが異母姉なのが笑えない話ではあるが。
舞香は今通っている学校でもやらかしているらしい。有栖川舞香は顔の良い男の子にちやほやされるのが好きだが、その従兄弟の兎月によくそれを叱られているらしい。薫子の脳裏には一瞬夜のお店のお姉様が頭をよぎった。それを「いえ、まだ小学生だし」と打ち消す。
「薫子さんも同じタイプかと思いましたけど、全然違って安心しました」
楓はそう言って笑ったが、その後の「薫子さんは何も考えなくても男性が死ぬ気で貢ぎそうです」という言葉には笑えなかった。バレンタインに贈ったチョコレートに合わない、お小遣い内だとは思えないホワイトデーのお返しだとか、5月の誕生日に届いた割と洒落にならない額を思わせるプレゼントだとかを思い返してしまった。
「薫子さんには、なんでもしてあげたくなってしまいますの」
「まぁ…。私は何もできなくなってしまいそう」
そう言って苦笑する薫子だけれど、若干一名。「薫さんが何もできなくなってしまえばいいのになぁ」、「そうしたら自分があらゆるお世話をして甘やかすのになぁ」と思っている人間もいるので本当に笑い事ではない。
楓に聞いた舞香は相変わらず薫子の悪評をばら撒いて、それを兎月という少年が打ち消して回っているとの事で薫子は胸を痛めた。
(それって親の仕事ではないの?お父様もあの子の母親も何をやっているのかしら)
もう関係のない人間ではあるけれど、舞香に振り回される少年を可哀想に思う。
「有栖川くんも従姉妹だからとあんなに構う必要はないと思うのだけど」
「いえ、止めなければ私のおじいさまとおばあさまは確実に怒りますわ。やらなければ怖いと分かっているのでしょう」
「そうですか……嫌な親戚がいると大変なのね」
全くだ、と薫子は頷いた。
報告と相談はしておいた方がいいと思って帰ってから祖父母にその話をするととても呆れていた。
「真実の愛とやらは教育には活かされないと見える」
元正の言葉に「真実の愛って何」と薫子は荒んだ目をしてしまった。スン…と感情がその瞳から消える。
薫子は前世も通して、元正達に引き取られるまでまともな愛情を知らなかった。そんな胡散臭い代物、物語の中だけではと真顔になった。




