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春宮家のひな祭りは美しく咲く桃の花と立派な七段飾りの雛人形が用意され、華やかな宴の場となっている。
薫子がいるから祖父母が豪勢にしたというのもあるが、女の子のお祭りだからと諾子や葉月に対して親たちがかけた情熱は非常に大きい。
「諾子、ほら笑って」
「お父さんったら何枚写真撮ったら満足するの!」
「怒った顔も可愛いけど笑った顔が見たいなお父さんは!!」
「諾子、諦めなさい。こうなったら笑顔で2、3枚撮らせてあげた方が早いわ」
柏木家は不服そうな諾子の笑顔の写真を撮ろうと苦心していた。
その後ろでおっとりと薫子と葉月はお茶をいただいている。幼いながら大和撫子といった風情で着物がよく似合い愛らしい。二人とも和菓子片手ににこにこである。
「それにしても、薫子に着物とか最強なんじゃないか?」
少し離れたところに椿、雪哉、諒太も来ていた。最近の春宮家ではすっかり薫子のお友達枠に入れられている。
「薫さんは何を着ても、どんな場所に居ても、何をしていても。常に最強の美しさですよ」
「椿は変わらないよねぇ」
しみじみと言う諒太に対して椿は「当然では?」という顔をしている。
そんな彼に苦笑しながらひなあられを手に取る。
ひなあられ、菱餅、ちらし寿司、蛤のお吸い物。ひな祭りのために揃えられた品々はどれも一級品だ。
「これ、七草堂のひなあられだな」
「ええ。グループ企業の一つですので」
「やっぱりうまいな」
雪哉がメーカーを言い当てて、頷く。
七草堂は春宮家が経営している食品部門の会社の一つだ。主に和菓子の製造販売を行っている。今日の菱餅もそこから来ていた。薫子がここのおまんじゅうが好きなのでおやつなどによく用意されている。
「いつもはケーキとかクッキーみたいなお菓子ばかりだけど、和菓子も美味しいね」
別所に用意された花の形の練り切りは見る人を楽しませるような美しさである。
今日は桃の花を模したものが多く用意されている。
「ありがとう。私のお気に入りなのよ」
そう言って差し出されたそれに諒太は一瞬驚いたあと、お礼を言って受け取った。
にこにことおまんじゅうを配る薫子は「これ美味しいの。食べて食べて!」という心境である。
「お茶もね、美味しいのよ」
和菓子に合うお茶を元正が選んで出している。それを少し自慢気に話す薫子にみんなほっこりしていた。




