33
「興味ごとが四ノ宮とケーキ!ついでに椿ってどういうことなんだよアイツ!!」
家に帰って一晩が明けた。雪哉は冷静に考えて俺悪くないじゃんとキレた。
ちなみに薫子が悪くないこともわかっている。彼女は恋愛にカケラも興味がないだけである。未来の破滅云々もあまり考えていない。優しい祖父母が勘当してくるのなら、それなりの理由があるのだろうとのんびり構えている。
「まぁ、薫子はガキだからな!まだ大丈夫だ!」
自分に言い聞かせるようにそう言うと、後ろから話しかけられて振り返る。母親の菊乃がいた。
「昨日は随分としょげて帰ってきたみたいだけれど、元気みたいね」
一晩でコロッと機嫌を戻した息子に苦笑すると、雪哉はそれを見て唇を尖らせた。
「俺の魅力が薫子にはまだ早いのだと理解しただけです」
どこまでも自信満々な息子の言葉にも一理ある。あれだけの美少女に対して魅力云々は置いておいて。
菊乃の見る限りでは、春宮薫子はまだ恋愛に興味があるようには見えない。女の子というのは早熟な子が多いのか、雪哉は常に追いかけられていたが、薫子がその手のタイプでないことは見ていればわかることだ。
四ノ宮藤花に懐いているのは、彼女が大人しい性格をしていることあっての憧れもあるだろうと推測している。
「薫子ちゃんはモテるもの。雪哉も男を磨かないと振り向いてもらえないかもしれないわね」
とはいえ、薫子だっていつまでも子どもではないのだ。いつか恋をすることもあるだろう。そう思いながら菊乃は笑った。
クリスマスが終わればすぐに年末だ。
薫子は祖父母に連れて回られることが多かった。祖父母について回る彼女はいつもどちらかと手を繋がれていて、どうやって懐柔しようかと考えている人間は多い。
小さい頃から懐かせれば、と考える人間には何故か薫子は近づかなかった。
「なんとなく、怖い感じがするの」
そう言って避けた人間が軒並み薫子を利用したい人間だったあたり、彼女の勘は冴え渡っていた。というか、前世の彼女が幸薄で騙されやすかった分、転生ボーナスで勘が良くなった可能性もある。
だからだろうか、的確に四季神も避けていた。円が薫子の参加するパーティーとかを調べて行ってみても姿は見えども、話しかけることができなかったり、声が聞こえども姿が見えぬこともあった。
(なんか……ますます欲しくなるなぁ)
人は手に入らないものほど美しく見えたりする。
薫子は知らないうちに意図せず円の執着心を煽っていた。




