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運動の秋の次は芸術の秋。
文化発表会の季節になりつつある。薫子はしょんぼりした。
彼女が描いた絵は前世から変わらず何か得体の知れないちょっとばかり人を混乱させる感じの絵だった。彼女曰く「見たまま描いているのだけれど」、という絵はしかし、孫バカの祖父母をして「絵は向いていない」と確信する程度の代物だ。まだ一年生でありながらそう思われている。
これをもらって嬉しそうにファイリングしている椿が逆に異常者の目で見られている。椿は薫子が生み出したものならば全て愛しいと思っているので平気だった。
絵は苦手な薫子だったが、音楽はそうでもなかった。合奏の練習は楽しく行っている。仲良くなった子達と鍵盤ハーモニカを演奏したりしていた。
雪哉はピアノが得意だったため、伴奏を務めることになっているが、さすがに一年生なので周囲に合わせて簡単な曲である。
「絵だけは観に来ないでね」
孫娘からのお願いに祖父母は苦笑した。
「俺は、あじがあっていいと思います!」
「椿さんったら意地悪ね」
ぷいと顔を背ける薫子に焦るように椿は「そんなつもりでは!」と顔を青くする。
諾子はさすがにフォローしきれないと思ったのか、無言である。諾子は椿ほど盲目ではないので薫子の絵画スキルについては口を噤んでいる。「まぁ、薫ちゃんにも苦手なことってあるよね!」と思っている。
薫子自身は気が付いていないが、彼女は最近結構子供っぽい動作が出るようになっていた。心が身体に引きずられているようだ。
学園に着くと、数名の女の子たちが薫子を指差して笑っていた。どうやら絵の出来についてバカにしているようである。
そんな彼女たちは、「どこをどうしたらあんなに不気味なうさぎさんを描けるのかしら!」とか言っていたが、その後ろには薫子と距離があるはずの朔夜がドン引きした顔で立っていた。
すぐに可愛子ぶって甘えるように近づく。彼の家はまだそこまで裕福ではないけれど、その美少年っぷりはずば抜けていた。
そんな彼女たちを避けて、遠ざかる。
「僕、人の苦手なことを指差して笑うってどうかと思う」
そう言って彼はスタスタと歩いて行った。
薫子はしょんぼりしながら椿と諾子に連れられて行った。さすがに言い訳のできない下手くそさであることは自覚があったので。
怒り返しても来なかった薫子のせいで彼女たちはしばらく冷ややかな目で見られることになる。あと、普通にヤベェなこいつらと思われて距離を置かれた。
この後、絵の練習を繰り返すもののやはりほとんど成果はなく、薫子は絶妙に見た人を不安にさせる絵を描き続ける事となる。
薫子は描いた絵が絶妙にホラー系テイストになるタイプの画伯。どうデッサンを取ろうと頑張ってもそうなる。




