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「お弁当は何がいい?」
「お家のお料理は何でも美味しいから、選べないわ」
祖母に聞かれて、照れたようにそう言う薫子。体育大会では保護者が観に来るし、昼休憩は一緒にお弁当を食べる。
引き取られてからはこうやって構われているが、幼稚園に入ったばかりの頃…有栖川の家にいた頃は清子だけしかそんなことを聞いてくれなかった。なので、そんなことを聞いてくれるだけで少しだけ幸せな気分になった。
桃子はそれでもリクエストを伝えてくる孫娘に目を細めた。
春宮に来たばかりの薫子はそんなことですら自己主張できなかったのだ。我が儘だったと聞いていたからどうしたものかと思っていたが、蓋を開けてみれば誰をも信用できない少女がそこにはいた。何も期待しないとばかりの彼女が少しずつ変わっていく姿はとても嬉しいものだ。
頭を撫でると、薫子はなぜ撫でられたか分からず照れた。
両親は薫子を撫でたりしなかったので余計である。
準備は白峰学園の人間が恙無く終えている。
初等部でも白桜会のトップメンバーは関わっているけれど、現在一年生の薫子たちは簡単なお手伝いくらいしかできていない。
それでも尊敬の念を持って見られるのだから、白桜会のネームバリューはすごいものだと感心する。
そうして迎えた当日、薫子の周囲には諾子・葉月・諒太だけではなく薫子を慕う女子たちが囲んでいた。薫子は地味に人気があった。諒太は居心地悪そうに苦笑している。年下だったなら「お姉様」と呼んで憚らない感じの視線である。
薫子は大人しい女の子たちを庇護している側面もあったので、彼女たちに非常に人気がある。甲斐甲斐しく世話を焼こうとする彼女たちは思惑はどうあれ薫子のことが大好きだった。
この機会に距離を近づけようと思っていた男子はあまりの圧に近づけなかった。
ついでに椿や雪哉も近づけなかった。クラスが違う上に組分けまで違った結果そうなってしまい雪哉は落ち込んだ。
「薫さんにお友達がたくさんできて、椿は幸せです」
一方、椿はちょっぴり感動していた。たしかに一緒にいられないことは悲しいが、薫子の周囲に人がいること自体は嬉しい。
朔夜にはその様子をドン引きされている。様子がガチ過ぎた。
「春宮さん、下級生が入ってきたら凄いことになりそうだなぁ」
「朔夜様ぁ、何か言いましたぁ?」
腕にしがみつこうとする人をするっと避けて、「何でもないよ」と彼はいつものように微笑んだ。
朔夜はしがみつかれたり抱きつかれたりすることが多すぎて、そういうのが不得意になっていた。あまりに嫌すぎて護身術を習い始めていた。
ふと目があった薫子がふわりと微笑んで手を振る。
同じ方向に椿・雪哉・朔夜がいたため全員嬉しげに手を振った。
なんやかんや大きな派閥になっている薫子